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No.278 はきけ

2013/12/20

先日のこと

当直業務に入ったばかりの時間帯に、「夕方、急に吐き気を覚えた」 と訴える女性が救急外来を訪れた
「今は、ほとんどおさまりました」 という患者

外見上は苦しそうでもなく、平然として診察室の椅子に座っている
詳しい問診をし、腹を触診、聴診したが、特に所見はない
しかし、どこか顔色が悪い

急性の胃出血などを疑い、入院を指示しようとした時

看護師が何度も何度も血圧を測っているのに目が止まった

「先生、血圧が低いです、 80くらい」

「末梢も冷たくて、サチュレーションが測れません」

と Iナース

橈骨動脈を触れると

かすかに規則的な速い拍動を触れるが、心房細動ではないようだ

心電図を見て、僕は愕然とした

右脚ブロックを伴う規則的な頻拍で、心拍数は 200
ナローQRSから上室性頻拍症と判断し、アデフォスの静注をしたところ、 10秒後には 80/分の正常心電図に戻った

「あー、楽になりました、先生」

と患者

血圧は 126/ 82 に回復していた

「吐き気」 と訴えていた原因は、何と発作性上室性頻拍だったのだ

結果オーライではあったが

僕が、型どおりの診察 (どんな訴えでも、患者を頭から足の先までを診る) さえしていれば、聴診の段階で頻拍に気付いたはずだった

「吐き気が主訴だから、原因は消化管か脳だろう、食中りかも」

などという思い込みが、最も基本的な胸部の聴診を怠たらせた

これは、専門的にはアベイラビリティーバイアス (availability bias) というらしい
つまり、普段よく診る症例の診断名をまず想起してしまうと、症状のすべてがその診断に合理的に見えてくるバイアスのことである

血圧の低さを指摘してくれたI看護師に感謝である

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