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No.283 tama・続き

2014/01/14

左下腹部痛の少年の父親は

「えっ、 CTを撮るんですか?」

「息子は 6歳の時アッペのオペしているんですけど」

航平は言葉を失くした

あらためて少年の右下腹部をよく見ると、わずかな手術痕があるではないか

「まずい、何としたことだ」

「それにこの父親、いったい何者?」

航平の頭は混乱した

「お父さんは医療関係の方ですか?」

おそるおそる尋ねる航平に、少年の父親は小さな声で答えた

「私は医師です」

そして、父親はさらに続ける

「先生、パンツも脱がして診て下さいませんか?」

「は、はい」

しどろもどろの航平は言われるままに少年のパンツを脱がせた

「そういえば、ヘルニアの嵌頓だってあったじゃないか」

今になって、鑑別診断が一つ浮かんだ

いや、少年の父親に教えられたようなものだが

鼠径ヘルニアを疑って陰嚢をさわる

少年はその途端 「痛い!」 と大きな声を出した

どうやら陰嚢の左側が痛みの中心のようだ

その時、少年の父親が静かに言った

「先生、精索捻転じゃないでしょうか?」

「すぐ睾丸のカラードップラーをして下さいませんでしょうか」

言葉は丁寧だが、其の響きには凛としたものがあった

航平:
「はっ、あい」

「はい」 というつもりが、 「あい」 になってしまった

これではどちらが主治医かわからない

もう一度少年をエコー室に連れて行き、睾丸にプローブを当てる

左の睾丸が右よりもかなり大きくなっていて、内部には、全く血流がないように見える

しかし、航平はいままで精索捻転のエコーを見たことがなかったので自信がない

「そうだ、父親、いや先生を呼ぼう」

エコー室に案内された少年の父親先生は、エコー像をみて即座に一言

「睾丸捻転ですね」

睾丸捻転 (精索捻転)

発症後 6時間以上経過すると睾丸壊死が起きてしまう緊急疾患だ

幸いまだ 2時間弱しか経っていない

航平は急いで泌尿器科のオンコール田村医長に電話をした

父親先生の見立てどおり、診断は 「左精索捻転」

すぐに手術が始まった

少年は 2つしかない、かけがえのない大切な 「玉」 を温存することができた

父親がドクターであったことが幸いして

手術後、航平は少年の父親先生に尋ねた

「先生は泌尿器科ですか?」

「いえ、内科です」

航平にとっては初めての精索捻転症例であったが、彼は誓った

「よし、これから腹痛患者は全員パンツを脱がすぞ」

- おわり -

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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