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No.393 知りたがり

2015/07/30

先日、知人の HT氏が

何の説明もなく無造作に、 「この本を読んでみてください」 と、一冊の文庫本を渡してくれた
明智憲三郎著 「本能寺 431年目の真実」 である

ん? 明智?

「明智」 という著者の姓が気になったので早速検索すると、明智憲三郎氏は慶大卒の システムエンジニアであり、明智光秀の子の於寉丸の血筋を引くとされる人物で、今や時の人として講演活動などで大活躍している様子がうかがえる
この本は 33万部を超える大ベストセラーで、今でも売れ続けているとのこと

現在、歴史上の最大の謎とされている本能寺の変

そして、 「いまさらでもないだろう」 と、つい感じてしまう本能寺の変論争

しかし、著者は

この事件に関する従来の 「定説」 や仮説は、その根拠が後世になって書かれた軍記物や、時の為政者に都合が悪くない立場で書かれた書物などであり、これらはいずれも内容において史料としては信頼性の低い文書であることを指摘する

そして、史料として信頼性の高い 「○○の日記」 など

事件関係者達を近くで見ていた人の記した幾つか現存する当時の日々の記録の内容を日付で追ってゆきながら、その内容を分析し、実際起きた事実と突合せ、それらを総合することにより真実にたどり着くという、一切の推量を廃した科学的な手法を取る

著者が 「歴史捜査」 と名づけたこの手法が斬新であるがゆえに、人は魅了され、読者が多いのも頷ける

医学では根拠に基づいた医療を EBM (evidence based medicine) と呼ぶようになって久しいが、歴史捜査の場合は根拠に基づいた歴史、さしずめ EBHといったところか

この本の要点を ごく大雑把に述べると

  • 「信長は本能寺に家康を招待するふりをして、本能寺で家康を討つ計画であった」
  • 「その計画を逆手に取った光秀が信長を本能寺に討ち取った」
  • 「光秀と家康の間には、あらかじめ同盟の密約があった」

この 3点に絞られる

( 家康は、山崎の合戦で秀吉に捕らえられた斉藤利三 (光秀の筆頭家老で本能寺襲撃班) が家康の事件関与を隠し通したことに対して恩義を感じていたため、後になって利三の娘である福 (後の春日局) を家光の乳母に採用したと著者が推理する部分には鳥肌が立った ・ ・ ・ ここだけは 「推量」 だが )


さて、学問というものは

必ずしも実利的なものばかりではない

いや、実利的でない学問のほうが多いのかも知れない

たとえば考古学

何千年も前のことを調べたところで、我々の将来にとって特に役に立つわけでもない

そして、史学

近代史は、我々の将来に何かの形で役に立つだろうが、戦国時代や、その前の歴史など、知っていたところで役には立たない
まして、本能寺の変だけに焦点を合わせて真実を解き明かしたところで何の役にも立たないことはわかっている

しかし、人には好奇心というものがある

たとえ自分の生活とは関係がなくても、 「知りたがり」 なのが人間である
その知りたがり本能を満たすのが学問なのだろう

虚構の極致であるミステリー小説が好んで読まれるのも、人の謎解き本能が満たされるからなのだ
インターネットが普及して検索エンジンが頻用されるようになったのも、人の好奇心のあらわれである

医学に関してはどうだろう

毎年、世界中から実に膨大な数の論文が出る
その中には、趣味的で本当にどーでも良いような研究も結構な数あって、そんな論文は誰にも引用されないまま時代の流れに沈んでゆく

それでも、研究成果は、その研究者や一部の人達にとって 「自分の好奇心を満たした」 という点で意味があったのだ

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