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No.415 制度改革

2015/12/01

「何でも 改革すれば良くなる」 と考えるのは 正しくない

2017年度から 専門医制度が大きく変わる

何が 新しいのか、そして この制度の決定的ともいえる欠陥は何かを考えて見る

新制度を大雑把にいうと

これまでは 「専門医」 とは、所属する学会が それぞれ独自の基準で認定していたものを、第三者機関である 「専門医認定委員会」 なる組織が専門医を認定するというものである

従来は

学会ごとに専門医の基準が異なり、 「専門医」 のレベルが標準化されていなかったが、第三者機関が 一定の基準で専門医を認定することにより 「専門医」 の質が保障されるという コンセプトのもとに定められた、というのが表向きの建前である

「専門医」 は

従来の学会独自の基準で決めていた いわば私的な資格であったのに対し、2017年度からは より公的意味合いが強い資格となる


さて、以下は 最も多くの人が専攻する内科について、簡単に説明する

現在の制度では、後期研修を 1年以上受けてから 試験によって認定内科医の資格を得る
認定内科医を取得したあとは 主として市中病院で研修を重ね、循環器病学や 呼吸器病学などの専門領域 ( = サブスペシャリティー) を学び、それぞれの専門医試験を受けることになる (二階構造)
そして、後期研修院側は 診療戦力としても 後期研修医に期待を寄せている

さて、新制度では

「認定内科医」 が廃止され、そのかわり 3年間の後期研修を受けてから 試験に合格すれば 「内科専門医」 となる

両制度の違いは

後期研修の期間と、 1階部分の呼称が異なることくらいではあるが、研修医にとっては 専門医資格を獲得するまでの期間が長くなる

新制度では

後期研修の 3年間を受け持つ病院を 「基幹施設」 と位置づけるが、基幹施設指定要件が 従来の研修指定病院のそれよりも はるかに厳しくなるらしい

そこで 要件を満たさない 市中病院は研修指定施設からはずされ、実質的には 後期研修を受けられる施設 (病院) が激減すると予測される
さらに 19の県では、 「施設基準を満たすのが 大学病院だけ」 といった事態に直面するという

19の県以外でも、後期研修を受ける市中病院が少なくなるため

新制度が発足すれば、後期研修医は 大学病院に集中することが予測されると共に、研修指定の要件を満たさない市中病院からは、医師が減少してゆく
特に地方都市で この現象は深刻な医師不足を招くことだろう


思い起こすと

現在の臨床研修システムが稼動し始めてから、研修先として市中病院を選択する医師が増加することによって 大学は深刻な人手不足に陥り、この影響は特に診療において顕著であった
「ある大学病院では 助教授が採血をしている」 などといった噂を聞いたものだ

反対に 有名市中病院には研修希望の医師が殺到し、病院側は 採用する研修医を試験で選抜したほどであった

「大学に 医師が不足している」 という理由で

いわゆる 「関連病院」 に医師を派遣できない、もしくは 派遣医師の全員引き揚げなどという事態は いたる所で起き、大学から医師の派遣を受けていた中小病院は、医師不足から経営難に陥ったりもした
結果、医師を派遣できない講座の主宰者 (教授) の権威は 失墜した

今回の専門医制度改革で 最も利するのは研修医ではなくて 実は大学なのではないかとさえ思う

以前のように 再び大学に医師が集まり、講座を運営する教授の復権なることは必至であるからだ

医師は 専門医の資格を得ても

それを維持するために 多忙な診療スケジュールを縫うようにして 学会の主催する学術集会や 講演会に足しげく通い、単位を蓄積しなければならないところは 従来と何ら変わることはないが、従来よりも、より多くの単位取得が義務化され 負担が増えることになろう
このことは、医学会側から見れば その権威が高まることになる

もちろん 学術講演会などに出席すれば

明日から使える 最新の知識を得ることができるという概念もあるだろうが、専門分野を専攻している専門医にとっては 学術集会や 講習会で学ぶまでもなく、常に アップデートされる日常臨床に必要な知識は あらゆる媒体から得ているはずであり、学会が それほど価値のある情報を提供してくれることはないのが実情であり、 「学会に出席して単位を取る」 ことは単なる 「儀式」 に過ぎなくなっている

しかるに 医学会の幹部の人達は 医学部教授が多く

新・専門医制度によって 大学の権威が高まることに変わりはない
このように考えると、今回の専門医制度の 「改革」 は実に巧妙に仕組まれていると僕は感じる


「何でも改革すれば良くなる」 と考えるのは 正しくない

「ゆとり教育」 という 「改革」 が今では失敗だったとされている事実が よく物語っているではないか

逆に、新・専門医制度で 最も割を食うのが 地方の中小病院である

今でさえ むずかしい医師確保が さらに困難になるのではなかろうか
大学に集まる医師達を派遣してもらえるのは、恐らく 「基幹施設」 の指定を受けている医療機関であり、これらとは縁のない、地方の中小病院は対象ではない

地方住民は 適切な医療を受ける機会を失い、大都市圏の住民は 熟練した医師の診療が受けられる

こんな医療の地域格差が ますます明確になることであろう

医師不在によって

地方の中小病院が立ち行かなくなることが 新専門医制度導入の隠れた政治的目的であるのではないか とさえ邪推したくもなる (あくまで邪推です)


皮肉な見方をすれば

専門医制度を いかに高度なものに変えたとしても、医師の技量が それに比例して上がることは きっとない
医師の技量上達には 言葉では説明できない、 「持って生まれたセンス」 というものがあり、いくら研修を受けても、いくら経験を積んでも、センスのない医師は 技量が上がらないし、逆もまた真である

これは 誰も公言していることではないが

今回の専門医制度改革は、実は 専門医資格を保険点数に反映させることに 最終目標があるように思われてならない

近い将来

「 ○○専門医が △名在籍している」 ということが、 ○○科を標榜する絶対条件となったり、専門医がいる病院は それが診療の点数に反映され、逆に専門医の数が要件に満たない病院では 同じ診療をしても減算対象となる等の制度が医療費抑制策の一環として導入される可能性が大きいのではないかと 僕は危惧する

この新制度導入を

どの部門が提言し 実行に移したかに関しては、今回は あえて触れないこととする

注 : 本稿は あくまで僕個人の素朴な 感想や 疑問であり、単なる意見に過ぎず、意見には 当然個人差があります

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