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No.445 誌上討論

2016/08/10

かつて、日本内科学会の下部組織に 「認定内科専門医会」 があった

当時は 今のように内科専門医 (今は 「総合内科専門医」 と呼称する) が、そこら中に ごろごろいる状態ではなくて、 「内科専門医」 の 称号を有する者は、十数万人いる内科医の中で たった 1800名前後であり、内科学会員の中でも 選ばれた存在であった
したがって、 「内科専門医」 であることに 彼らは プライドを持っていたし、切磋琢磨する機運が とても高かった

当時は

日本内科学会誌 (内科学会員全員に配布される) とは別に 「内科専門医会誌」 というものが 定期刊行され 内科専門医に配布されていた

その中に 「誌上討論」 という コーナーがある

これは、実際に 難解な症例を経験した、主として 大学や 有名病院に在籍する 内科専門医が 症例を提示し、次の号では 数名から 十数名の志願読者が 病名、 鑑別、また その病名を考えた根拠など を 理路整然と、数ページを使って述べる
志願の解答者は おおかた大学などの 専門家集団や、 時には個人、 あるいは開業医など さまざまである
そして最後に 出題者からの 正答と 解説が載せてある

勇気ある読者解答の中には

ドンピシャの 正解もあれば、的をはずした 不正解もある
しかし、たとえ不正解であっても 彼らが考える思考過程が 興味深くて、つい 読んでしまったものだ

その中で 僕が印象的だったのは

回答者の常連の中に、常に出題者の解答と 全く同じ正答を出す、豊中市の開業医、 S先生がいたことである
並み居る錚々たる回答者が、長々と持論を展開し、結局 いくつかの鑑別診断を挙げるに留まって終っていた
そして 出題者側も 難解な症例だからこそ 出題したのであり、おそらく 部内でも ディスカッションを重ねて、ようやく 診断に結びついたのであろ

それを S先生は

  • 「診断 : ○ ○ 」
  • 「根拠 : △ △ 」
  • 「治療 : □ □ 」
  • 「文献 : × × 」

といった具合に、いとも簡潔な、短い文章で、断定的に病態の本質を言い当てる
まさに 胸のすく思いであった

S先生の診断は あらゆる専門分野において 正解率 90%以上ではなかったかと思う
いずれにしても、他の回答者達とは 別格な存在であった

一体、 S先生は どんな経歴の持ち主なのかを知りたくなり

いろいろな キーワードで 検索をかけたが、一切 ヒットしなかった
もしかすると 僕が知らないだけで、知る人は知る 有名人だったのかもしれない

S先生は ひょっとして

とてつもない物知りでもなく、膨大な数の患者を経験しているわけでは ないのかも知れない
ただ、内科領域に関しては しっかりとした基礎知識を持ち、提示された 多くの臨床情報の中から 本質となる ポイントだけを見つけ出し、その情報をもとに 科学的思考で 論理を構築するという 天才的能力を持っているのだろう
不確実な所は 一般的な教科書や 文献を 的確に渉猟して 正解を導き出したのかも知れない
しかし、どの教科書、どの文献を探せばよいのかを 知っていることも臨床能力のひとつである

当時の僕は

こんな 素晴らし内科医になりたい、もしくは かかりたいと思ったものだ



1989年創刊の 内科専門医会誌は

諸般の事情で、2006年 5月号をもって 残念ながら廃刊となってしまった


つい先ごろ、引越のために 書類を整理していたとき

内科専門医会誌が まとめて出てきたから、そんなことを ふと思い出した

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