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chap.019 マグネシウム

2015/11/26

腎機能が正常の 40歳代女性が、慢性の便秘の治療で 常用量の マグネシウム製剤を 長年にわたって服薬していました

ある夜、トイレでうずくまっているところを 家人が発見し、救急搬送されました
病院到着時には 意識障害があり、体温は 33.4度と低く、血液検査の結果では 血清マグネシウム値が 18.4mg/dl (正常値は 1.7~ 2.3mg/dl) と、極めて高値でした

医師達は、高マグネシウム血症としての治療を開始しました

先ず 緊急の人工透析を行って マグネシウム値は 10mg/dlにまで低下したのですが、患者は心拍数 30程度の徐脈で ショック状態に陥りました
徐脈に対して 経皮ペーシングを実施しましたが反応せず、あらゆる救命処置によっても 状態の改善はなく、翌日になって 腸管虚血、敗血症、代謝性アシドーシスを起こし 患者さんは死亡されました

以上は、ある製薬会社が 2015年 10月に公表した 症例経過の抜粋です

腎機能障害もない、比較的若い患者が

下剤ごときで 高マグネシウム血症を起こして死亡するとは 何とも ショックな出来事であると思います
なお、マグネシウム製剤は 一般に老若男女を通じて、下剤として頻用されているので 注意が必要です


下剤の種類には 大きく分けて、便を柔らかくするものと、直腸の収縮を促進して排便を促すものとがあります

前者は 商品名では 塩類下剤として マグラックス、 マグミット、 酸化マグネシウム (カマ) などの マグネシウム製剤と、新薬の アミティーザ、後者は プルゼニド、 センナ、 ダイオウ末 などです

高齢者では 便秘の頻度が高くなりますが

その理由は、歯が弱くなり 食物繊維や 食品の必要量を摂取することが困難になること、神経障害から 直腸の収縮反応が弱くなることなどが 原因と推測されます

さて、現在 便秘の治療として マグネシウム製剤を処方されている人は とても多いと思います

では 高マグネシウム血症の 初期症状とはどんなものでしょうか?

はきけ、嘔吐、徐脈、皮膚紅潮、筋力低下、傾眠傾向、全身倦怠感などは 初期症状であり、高マグネシウム血症が進行すると 嚥下障害、意識障害~ 昏睡、呼吸筋麻痺、血圧低下などが起きます

下剤として マグネシウム製剤を処方している医師は

定期的に 血清マグネシウム値を測定することが必要とされているのですが、これを実行している医師は多くはなく、また、定期的といっても どのくらいの間隔で マグネシウム値を検査するべきかの指標は示されていません
2ヶ月ごとの通院患者であれば、たとえ 毎回測定しても 2ヶ月ごとに マグネシウム値がわかるだけであり、その間は全く不明です


私が かつて経験した症例は、糖尿病を持つ 70歳代の 女性でした

血清クレアチニン値は 正常範囲内であり、腎障害を有しているとの認識はなく、下剤として 酸化マグネシウム (投与量は忘れました) を投与していました

その女性が ある夜、失神発作にて 救急搬送されてきました

病院到着時には 意識は清明になっていましたが、モニター心電図では 完全房室ブロックがあり、心拍数は 30くらいで、血圧も 上が 80程度だったと記憶しています
徐脈による失神発作であったわけです
とりあえず 体外式ペースメーカーを入れ、ようやく出てきた 採血結果をみて驚きました
血清マグネシウム値が 8.6mg/dlと 上昇していたのです

軽度の高マグネシウム血症の治療は、高カリウム血症の初期治療に準じます

すなわち、カルチコール (グルコン酸カルシウム) の静注と 生理的食塩水、ループ利尿薬を投与します
しかし、マグネシウムは 血中での蛋白結合率が低いため、血液透析が 最も確実な方法です

高齢者における 原因不明の失神発作は多いのですが

その一部には、塩類下剤による 高マグネシウム血症が含まれているかも知れません


では、反対に 低マグネシウム血症はどのようにしてわかるものでしょうか?

心不全などの治療として フロセミドなどの ループ利尿薬を投与していると、低カリウム血症を起こすことがあります
こんな時、カリウムを投与するなどしても、なかなか カリウム値が補正できないことがあり、その場合、血中マグネシウム濃度を測定すると、低マグネシウム血症を伴っていることがわかります
マグネシウムを補充することによって カリウム値は補正可能となります。
これは 臨床でしばしば経験することです


医師にとって肝腎なことは

マグネシウムという項目は、多くの場合、血液検査セットに組み込まれていないため、意識して マグネシウムの項目をチェックしないと見逃してしまうということでしょうか

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