• 救急の場合
  • 診療時間
  • 面会時間
  • 人間ドック
  • フロアマップ
  • 川口正展のなるほどザ・メディスン
  • Dr.ブログ

chap.029 はしか

2016/09/23

先日、関西空港で

空港職員や、患者を診察した 医師、看護師を含めた 集団感染が起き、脅威の眼差しで 注目を浴びている 麻疹
麻疹は 極めて 感染力が強く、 「体育館の隅で 麻疹の患者が 咳をすれば、対角線上の 隅にいる人に 感染する」 と さえいわれます


麻疹 = はしか

余談ですが、はしか とは、元来、イネ科植物の 穂の先の 尖った毛のことをさし、これに触れると 痛痒くなることから、麻疹の初期の 体の表面の ちくちく感に なぞらえて 麻疹を 「はしか」 と 呼ぶようになったという説が 有力です
それは 喉が ひりひりすることを 「喉が、はしかゆい」 という 方言が 三重県周辺にあることからも 容易に想像がつきます
もっとも 「はしか」 と 呼ばれるのは 江戸時代からで、それ以前は 「あかもがさ」 と 呼ばれていたと言います
因みに 「もがさ」 は 天然痘のことです

「麻疹」は 中国からの 外来語で

はしかの 発疹が 麻の実のように 赤いことに 由来するそうです


麻疹は 古い輸入感染症で

すでに 奈良時代の頃から 流行を 繰り返してきました
江戸時代にも 何度か 大流行の年があり、多くの人が 死亡しました
そのため、麻疹は 江戸時代、 「命さだめ」 と 呼ばれていたといいます
医療が 進歩している現代ですら 麻疹による 死亡は 0.1~ 0.5%ですから、当時の 麻疹による死亡は とても多かったのではないでしょうか
多くの子供が 感染し、生き残った者だけが 終生免疫を得た 大人となることが できたわけです

子供時代に 麻疹に感染しないで 大人になった人が 罹患すると

重症化し、脳炎などの 合併症を起こして 死亡率も高くなります
歴史を辿れば、徳川 5代将軍、綱吉が 64歳のとき 麻疹にかかって 死去しています


麻疹は 「二度なし病」 ともいわれ

一度罹患すると 終生免疫が得られるとされています
しかし、これも 最近では 少し怪しくなってきました

なぜなら

かつて麻疹が 日本に 漬淫していた時代、麻疹ウイルスは 巷にあり、一度 麻疹に 罹患した人は、知らず知らずのうちに 麻疹ウイルスの 被曝を受けることにより、細胞性免疫の ブースター効果によって、常に ある程度以上の 抗体価を維持していたから 「終生」 の 免疫状態になり得たのです
しかし、日本原生の 麻疹ウイルスが 撲滅されたとする 宣言が出されるほど 麻疹患者が減少し、最近では 年間 20~ 30人くらいしか 麻疹症例がなく、巷に 麻疹ウイルスが ないため、嘗て 麻疹に罹患した人でさえ、高齢になると 再感染を防護できるだけの 抗体を持っていない 可能性もあるからです


麻疹は、冬から 春にかけて 流行します

パラミクソウイルス科に属する 麻疹ウイルスは、 10日程度の 潜伏期を経て、突然の 高熱と 鼻汁、 咳など、一見 インフルエンザ様症状を 起こします (カタル期)
このときに 口腔内を 観察すると、奥歯の頬側に 「コプリック班」 と 呼ばれる 白い ケシ粒大の 隆起の集簇を 見ることができるのですが、そしてそれが 確定診断となるのですが、医師が 単なる 風邪とか インフルエンザと 思い込んでしまうと、コプリック班を 見ることもしないため 正診されません
筆者の 研修医時代と異なり、麻疹を診る機会が 極端に減った 現今、コプリック班の 実物を見たことのある医師は 少ないと思われます

カタル期を過ぎると 症状は 次の段階に進みます

すなわち、一旦 自然下熱したあと、再び 高熱を発し、この時は 全身の 赤黒い発疹が生じています
これを見て 初めて、麻疹ではないか、と 診断されることが 多いのが 現状です

麻疹感染では リンパ球が 強力に抑制されるため

感染後は 細胞性免疫力が落ち、時には 細菌、 真菌による 二次感染、また 結核の再燃なども 起きます

感染力の 最も強いのは

発疹期 ではなくて カタル期の 前後とされていますので、症状が 全くなくて 自分は 健康と考えて 人と接している間に、その人に 感染させているというのが 現状であり、だから 関西空港や 江戸時代 (少なくても 13回の 大流行があった) のように 集団感染が 起こりうるのです


さて、はしかを予防するには ワクチンが 重要ですが

麻疹の 弱毒生ワクチンが 定期接種となったのが 1978年ですから、平成 28年時点で 38歳以上の人は 多くが ワクチンを 一度も受けていません
したがって 幼少期に 麻疹に罹患していない人は 麻疹に対する 免疫がなく、感染すれば 必ず発症する と 考えて良いでしょう
もっとも 今 50歳以上の人は、幼少期が 麻疹浸淫期であり、多くが 麻疹に 罹患して 生還しているわけで、免疫を 保有していることが 多いのですが

1978年の 麻疹ワクチン 導入以来、日本の麻疹患者は 激減しました

しかし、導入時は まだ 1回接種法であったため、その免疫持続力は 精々 5~ 10年程度であり、この 1回接種年齢層は 麻疹に 罹患する 危険性が高いと考えられています

いっぽう、 2006年度から 導入された

MRワクチン (麻疹 ・ 風疹の 二種混合) は 2回接種であり、免疫は 比較的 長期間 持続します

なお、一回接種の人が 麻疹に感染すると

典型的な 麻疹の経過を辿ることなく、たとえば カタル症状がない、発疹も 風疹と 見間違えるくらの 軽い状態、すなわち 「軽い麻疹」 として 経過することがあり、これを 「修飾麻疹」 と呼んでいます


さて、日本では 麻疹は 撲滅に近い状態ですが

世界には 至る所に 麻疹の 浸淫地域があり、海外から 麻疹が 持ち込まれることも 今後は 十分に予測されます

では、抗体を持っていない人が 麻疹患者に接してしまったら どうすれば良いのでしょうか?

6日以内に ガンマグロブリンを 筋注、あるいは 3日以内であれば 麻疹ワクチン接種をする などの 発症予防策があります

 |