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No.110 ねこサイン

2012/01/23

英語表記では Cat’s sign

残念ながら、猫とは全く関係がない
これは、僕が考案して、いつも使っている、意識障害の原因検索キーワード語呂合わせである

  • : カルシウム(高カルシウム血症)
  • : アンモニア(肝硬変などによる高アンモニア血症)
  • : 炭酸ガス(炭酸ガスナルコーシス)
  • : 心原性(徐脈性、あるいは頻拍性不整脈、大動脈弁狭窄症など)

  • : ショック
  • : 中毒(=intoxication;睡眠薬過剰服用、アルコール、毒物など)
  • : 血糖値(=glucose;低血糖、高血糖)
  • : ナトリウム(低ナトリウム血症、高ナトリウム血症)

稀にしか見ない

カルシウム異常や高アンモニア血症を上位に置いたのには訳がある
通常の緊急用血液検査のセットには、カルシウムやアンモニアが入っていないため、意識してオーダーしないと、見逃してしまう可能性が高い

脳血管障害を入れていないのにも、それなりの訳がある

それは、「意識障害」を見れば、誰だって最初に考えるのは脳(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血)だから、わざわざ覚える必要がない

英語、日本語ごちゃ混ぜの

この 「猫サイン」 は是非使ってもらいたい
意識障害程度の高低に関係なく使えるし、救急場面以外でも使える
因みに、日常臨床において意識障害の原因となる比較的高頻度のものには、低ナトリウム血症、低血糖症、脳血管障害などがある

さて、救急医学での意識障害鑑別ツールとしては

カーペンターの分類が有名で、日本の研修医向けマニュアル本には必ず載っている
「アエイオウチップス」 というやつで、多くの研修医は知っている

しかし、きっと彼らは、これを使いこなしていないはずだ

それは 「アエイオウチップス」 のかかえる根本的な欠陥による

「アエイオウチップス」 とは

  • A : 急性アルコール中毒
  • E : 内分泌
  • I : インシュリン
  • O : 低酸素血症
  • U : 尿毒症
  • T : 外傷
  • I : 感染症
  • P : 精神疾患
  • S : 失神、脳卒中

A の 「急性アルコール中毒」 がトップにあるが

急性アルコール中毒など、状況からすぐわかるし、同様に T の 「外傷」 も見ればわかることで、覚えることではない

I の 「インスリン」 は

確かに、血糖値異常を連想させるが、インスリンを使っていない人でも低血糖発作を起こすことがある

O の 「低酸素血症」 は

患者の皮膚の色を見れば一目瞭然、さらに今は経皮的酸素飽和度計がどこにでもある

U の 「尿毒症」 など

意識障害の原因とはなりにくく、血液データを見ればわかること

P の 「精神疾患」 は

具体的疾患名を欠くため、どのような病態を想像するべきかわからない

E の 「内分泌」 や、I の 「感染症」 は漠然的過ぎて

どの内分泌疾患で、あるいはどんな感染症で意識障害が来るのかをしっかりと把握している人でなければ役に立たない
(意識障害が来る代表的な感染症はレジオネラ肺炎、内分泌疾患なら粘液水腫)

最後の S の 「失神」 は

一過性の意識障害であって、持続する意識障害の鑑別というコンセプトにはそぐわない

「アエイオウチップス」 の更なる大きな欠点は

ナトリウム値異常が入っていないこと
ナトリウム値異常は意識障害の重要な原因で、しかも頻度が高いのに

また、稀ながら重篤な経過を取る高カルシウム血症、高アンモニア血症だって入っていない
心原性も、ショックもない

このように欠点だらけ (欠点だけ?)

「アエイオウ・・・」 (アイウエオ・・・とも言う) を、もう研修医に教えるべきではない

発声練習でもあるまいに

「アエイオウ・・・・・・」 とは、いったい何の洒落か

「ねこサイン」 のほうが

はるかにかわいいし、覚えやすいと、僕は自画自賛する

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