2012/02/10
三島由紀夫は、小説 「仮面の告白」 の中で、自分が盥 (たらい) で産湯を使った時の記憶が鮮明に残っているとしている
無論、これは虚構の世界かも知れないが、もしかすると、すべてにおいて常識を遥かに超えた三島由紀夫なら、これもありうることかも知れない
鮮明に覚えている初めの記憶は、ある日の夕食時、すくっと立ち上がり 「さくらー さくらー やーよいのそらあにー」 と、フルコーラス歌ったことだ
その時、自分は、なぜ周囲が驚く表情をしたのか不思議に思った感情も記憶している
おそらく、1歳前後のことだったのだろう
両親が後に語った所によると、これが、生後僕が初めて口にした日本語であり、翌日から堰を切ったように喋り出したとのことである
あたかも昨日の出来事のように鮮明に覚えているし、その時、自分がどう思ったのさえも記憶している
なお、5歳以後の出来事に関する記憶は完全である
脳は無限に近いメモリー装置を搭載しているらしい
なお、海馬 Hippocampus とは、その形状がタツノオトシゴ (魚類) とよく似ている所から命名された
海馬は、細胞数にして千億個の、脳全体からすれば非常に小さな部分であるが、記憶のトールゲートとして、とても重要な部分である
例えば一度しかかけない電話番号などはすぐに記憶から捨ててしまう
逆に、幾度となく入ってくる情報については、これを重要と判断し、以後の処理をする
重要な記憶は海馬の隣の扁桃体と情報をやりとりして処理を加え、大脳皮質(側頭葉、前頭葉)に送られ、ここに記憶は定着する
扁桃体は喜怒哀楽、情動を司っていて、その出来事の時の感情とともに大脳は記憶するという
エビングハウスが、自ら無意味な音節を記憶し、経時的に再生率を調べた研究は、 「エビングハウスの忘却曲線」 として有名である
この研究によれば、20分後には42%を忘却し、24時間後には74%を忘却していた
特別の意味を持たない事象に関する海馬の記憶機能はだいたいこんなものなのだろう
また、アルツハイマー病、アルツハイマー型認知症は、海馬の萎縮が特徴的で、これにより、記憶の入り口が閉ざされる
したがって、 「記憶障害」 はアルツハイマー型認知症の病初の最大特徴である
(つづく)