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No.130 いい人

2012/03/14

十数年前のこと

妻から、 「あなたは人間嫌いだから・・・」 と言われたことがある
その時は、 「そんなことないのだけど」 と思った

しかし、よくよく自分を見つめ直して見ると

妻の言ったことは本当かも知れないと思うこともあった

まず、僕は人混みが嫌い

というか、怖い

所用で名古屋駅ビル周辺に出かけたとしよう

すると、人の多さに気後れする
いや、大勢の人を見るのが怖い
だから、人を見ないようにするために、周囲の広告を見たり、また下を向いたりして、足速に歩く

一刻も早く通り過ぎたい一心で
敵陣を突破する心境で

4歳から 37歳まで名古屋市に住み、都会には慣れているはずなのに、どうしても馴染めなかった

ある病院に勤務していた時も、日々、緊張感を強いられた

同僚医師や病院スタッフ、議会議員、さらには患者さんに対しても、常に、ある種の畏怖を抱いていた

しかし、これには理由があった

当時
その病院では、医師同士の関係が、少しぎくしゃくしていた
看護師と医師とは、チーム意識があまりなく、協力関係などはなかった

ある医師は看護師にパワハラ発言を繰り返した
追い込まれたその看護師はノイローゼとなり、休職に至ったという噂もあった
医師に対して、理不尽な、個人的要求をする公職さえもいた

こんなことは、きっと、どこの病院でもあることだろうとは思っていた

決してすべてが僕を敵対視しているわけでもなく

僕に直接危害を加えようとしているわけはない
そんなことは頭ではわかっていても、いつも何かに怯えていた

隙を見せることが出来ず、気を抜くことができない日々の連続

「周囲は敵ばかり」 という、被害妄想にも近い感情をいだいたことも、幾度となくあった
というのも、小さな 「事件」 は、絶えず僕の中で起きていたから
いつ、どこから攻撃されるかわからない不安
できるだけ自分の意見は周囲に言わないほうが、無難だと感じていた

ある日のこと、とある患者から電話があり

「夜は、精々、身辺に気をつけることだな」 と、捨て台詞による脅迫を受けたことがある
もちろん、全くの逆恨みである

この患者さんには

ある事情があったため、その言葉には現実の匂いがした
僕は、武道の心得が多少あるものの、自衛のため、腹から背中にかけて分厚いマンガ雑誌と新聞紙で囲み、その上から晒 (さらし) を巻きつけ、ポケットにはホイスル、手には鋼鉄製の杖、通勤用の自動車内にはバールを常置して、有事に備えた
「相手が一人とは限らないから、最小限の武装は必要だ」 と、真剣に思った

僕は本当に人間嫌いで、人間が怖いのか?

そんな僕は、医者として、向いていないのではないか?
と、常に自問自答していた当時を思い出す

それが杞憂に過ぎなかったことを

はじめて知るのは、飯綱病院に着任してからだ
勤務開始から 2年間、人が怖いと思った瞬間は一度もない
他人がいるから自分があり、他人がいるから生きていくのが楽しいのだと悟った

ここには攻撃的な人がいない

皆、大人だ
だから、誰とでも、身構えることなく語ることができる

環境によって、人はどのようにも変わることができることを知った

かつて、僕が、常に、目に見えない何かに怯えていたのには

おそらく自分側にも原因があったのだろう
必要以上に身構え、常に臨戦体制を取っていたから、相手も心を開かなかったのかも知れない
その頃の僕は、きっと 「嫌な人」 だったことだろう

「人生はいつからでもやり直せる」

この言葉は真実を突いている

小心者の僕は、周囲に圧倒されやすい

だから、都会の複雑な人間関係の中では 「いい人」 になっている余裕など、なかっただけのことと思いたい

今、果たして僕は 「いい人」 になれただろうか?

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