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No.199 メタボ健診

2012/12/27

今や、すっかりその名を知られた、通称 「メタボ健診」

2000年に、厚労省次官通知で始まった 「 21世紀における国民健康づくり運動」
これは、通称 「健康日本 21」 として知られ、現在も改訂版で実施されているが、国民には殆ど浸透していない
だから、汚名挽回(?)なのか、 2008年から開始された特定健診 (メタボ健診)

だが、今の特定健診には 2つの大きな問題があると思う

一つは LDLコレステロール値測定の問題

LDLコレステロールを

「悪玉コレステロール」 と呼んで、基準値を定めたまでは良かった
しかし、そもそも LDLコレステロールとは蛋白とコレステロールの複合体であり、その組成には個人差もあるとされる
また、その直接測定法も試薬メーカーにより複数存在し、同じ検体を測定しても値が異なる
さらに、 「直接測定法による LDLコレステロール値」 が動脈硬化のリスクに、果たしてどれくらいかかわっているのかについての明確なエビデンスがない

対して、総コレステロール値と冠動脈硬化の関係については、エビデンスが多い

加えて、総コレステロール値から HDLコレステロール値を差し引いた数字 (=non-HDL-C) のほうが、 LDL直接測定よりも意味があるとの指摘も多い

以上のことは、すでに 2010年に動脈硬化学会が指摘していることである

我々は、 「 LDLコレステロール値」 という数字に、あまりにも振り回されてはいないだろうか?

もっとも、元来

総コレステロール値はメタボリック症候群の診断基準には含まれていないから、メタボ健診でこれを測定する必要がないと判断する厚労省は、ある意味正しい
だったら LDLコレステロールだって同じ事で、これだけは測定するようになっていることが、そもそもおかしいのに、結果欄に LDLコレステロール値が印字されてくるから、健診担当者としては悩ましい限りだ

僕は 「 LDLコレステロール値を測らないことが正しい」 と言っているのではない

「メタボリック症候群」 とは

内臓肥満がすべての原因となり、糖尿病を引き起こし、中性脂肪の増加、善玉と言われる HDLコレステロールの減少を招くという概念 (仮説) である

糖尿病の発症や、 HDLコレステロールの減少は、結果として、動脈硬化性疾患を引き起こす

だから、源流たる内臓肥満を見つけ出し、これを是正することにより、動脈硬化性疾患の一次予防をして、国民医療費を削減しようとする壮大なる試みが、特定健診制度なのだ

だったら、何も内臓肥満だけにこだわらず

動脈硬化を引き起こすことがわかっているコレステロール高値の人も、ターゲットにするのが正しいのではないか

メタボリック症候群とコレステロール値とは直接の相関関係がないが

共に独立して冠動脈疾患のリスク因子である
現状の制度では、 LDLコレステロール測定は、だだ行うだけであって、たとえ高くても、事後指導の対象とはしていない不思議

すなわち、メタボ健診などという

内臓脂肪にとらわれ過ぎた、誤解を与える呼び名はやめて、検査項目から、 LDLコレステロール測定を削除し、そのかわり、新たに総コレステロール値測定を加えるのが医学的には正しい

二つ目は メタボリック症候群と診断された人が、脱メタボする率があまりにも低いこと

昨年 「メタボ」 と診断された人は 今年もまた 「メタボ」 という場合が多い
これでは何のための、大金と労力をつぎ込んだメタボ健診かわからない

税金をつぎ込む制度なのだから

医学的根拠にのっとった検査項目に設定し直して、かつ事後処置を徹底し、動脈硬化性疾患の一次予防という、期待される本来の成果を出したいものだ

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