ホーム > Dr.ブログ > No.228 下剤で失神?

  • 救急の場合
  • 診療時間
  • 面会時間
  • 人間ドック
  • フロアマップ
  • 川口正展のなるほどザ・メディスン
  • Dr.ブログ

No.228 下剤で失神?

2013/04/01

失神の患者・松永好子さんの息子は

「意識があるのだし、家に連れて帰る」 との意向を示したが、
テンポラリーペースメーカが入っている間は入院して頂くしかないことを説明して、ようやく入院の承諾が得られた


「シックサイナスかも知れないし、いつ突然死するかもわからないから、このままパーマネントペースメーカーを入れるべきだ」

と循環器内科チームは主張する

しかし、藤谷の頭の中には別の考えが浮かんだ

それは、かつて、酸化マグネシウム (塩類下剤) を投与されていた便秘患者が、同様に徐脈を起こし、血中マグネシウム濃度が異常に上昇していた症例を担当したことがあったからだ

東新記念病院の内科のルチン採血では

カルシウムや マグネシウムはセット項目から除外されているので、普通に救急セットをオーダーすると、当然 Caや Mgの値は表示されない

藤谷は残血清で Mg濃度を測定した

間もなく結果が返って来ると、何と、その値は 8.3mg/dlだった

マグネシウムは カリウムと同じように

通常細胞の中に多く含まれていて、血液中の濃度は低く、基準値は 1.7 から2.6mg/dlに過ぎない

さらにマグネシウムが カリウムと似ている点は、血中濃度が極端に上昇すれば、徐脈、洞停止、房室ブロック、心停止が起きることである

盲点は

普通の状態では、高マグネシウム血症は滅多に起きないから、疑わなければ検査しない所だ

腎機能が多少でも低下している人に

下剤である酸化マグネシウムや、胃薬であるマーロックスを不用意に投与すると、容易に高マグネシウムを起こすことが知られている

松永好子さんは血清クレアチニン値が 1.0mg/dlであり

クレアチニン値だけから見れば、慢性腎不全であることを見逃すかも知れない

しかし、松永さんが、小柄な高齢女性であることを考えると、この値は決して正常ではなく、潜在的慢性腎不全があると考えるべきなのだろう

加えて、便秘薬としての酸化マグネシウムを投与しているにもかかわらず

長く排便がないということは、投与したマグネシウムは長く腸内に留まり、腸管からより吸収されやすい状況を作り出していたのだろう


松永好子さんは

カルチコールと ラシックスを投与された後、1回だけ人工透析を受け、血中マグネシウム値は正常化した

そして、パーマネントペースメーカーを植え込むことなく、日常生活に戻っていった

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

参考 :
2008年に 「医薬品・医療機器等安全情報 No.252」 として、医原性高マグネシウムの喚起がなされた

 |