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No.247 血圧

2013/07/11

小栗俊太郎は

救急搬送された患者、谷口鷹三を目の前にして、考えていた

谷口さんは、高血圧などの治療で、東新記念病院に以前から通院している人だ

1時間前から急激な腹痛を訴えているという

触診すると、腹は張っているが、腸管内ガスの雰囲気ではない

そして、圧痛の部位の特定はできない

「腹水? 腹腔内出血?」

実は谷口さん

ついこの間まで胆嚢炎の治療で入院していて、数日前に退院したばかりだ

それなのにまた入院となりそうな気配

それを考えると、少々、心が重い

到着時の血圧は上が 90、下が 62と低い

心拍数は 126

谷口さんの腹の中で何かが起きていることは間違いなさそうだ

小栗は救急室の隅で布をかけられている超音波装置(エコー)を持ち出した

最新式のエコーは、エコー室で使っているので、以前エコー室で使っていた旧式の物である
それでも、腹水を見るくらいは簡単なはずだ

谷口さんの腹にエコーのプローブを当てると

腹腔内には案の定、液体がたまっている

谷口さんは肝硬変など、腹水のたまる疾患は持っていないはずだ

確認のため 2ccの注射器に 23ゲージの注射針をとりつけ、試験穿刺を試みた
シリンジに引けてきた液体は、純血液と思われる程、濃い赤い色をしている

腹腔内出血である

原因は?

  • 腹部大動脈瘤の破裂?
  • 肝癌の破裂?

しかし、エコーで見る限り、腹部大動脈には瘤らしき膨らみはない

肝臓も正常だ

その間、血圧は、さらに下がり、心拍数はさらに上がっていく

恐らく、造影CTか、血管造影をおこなえば出血源の特定はできるであろう

しかし、今は画像を使って出血源を探っている猶予などない、一刻を争う状態だ
輸血だって、今から手配しても最低2時間はかかるだろう

開腹しか救命の方法はない

小栗は、内頚静脈から採血した血液で血液型を判定し、 10単位の輸血オーダーを入れた

傍らで看護師が血管確保をしようと腕の皮静脈を探している

「先生、とれません」

腹腔内出血で血圧が低下しているので

駆血帯で駆血しても静脈が浮き出て来ないのだ

「血圧が低いのだから、動脈の流れを止めないように、もっとゆるく駆血した方がいいよ」

小栗は看護師にそう言った

しかし、それでもルートキープはできない様子だ

血圧が低下しているのだから

大至急、大量補液が必要なことは明らかにもかかわらず、ルートキープができないのは非常に困る

「中心静脈 取るから」

小栗がそう言うと、ナースの一人は早速準備を始めた

- つづく -

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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