2013/07/11
救急搬送された患者、谷口鷹三を目の前にして、考えていた
谷口さんは、高血圧などの治療で、東新記念病院に以前から通院している人だ
触診すると、腹は張っているが、腸管内ガスの雰囲気ではない
そして、圧痛の部位の特定はできない
「腹水? 腹腔内出血?」
ついこの間まで胆嚢炎の治療で入院していて、数日前に退院したばかりだ
それを考えると、少々、心が重い
心拍数は 126
谷口さんの腹の中で何かが起きていることは間違いなさそうだ
最新式のエコーは、エコー室で使っているので、以前エコー室で使っていた旧式の物である
それでも、腹水を見るくらいは簡単なはずだ
腹腔内には案の定、液体がたまっている
谷口さんは肝硬変など、腹水のたまる疾患は持っていないはずだ
確認のため 2ccの注射器に 23ゲージの注射針をとりつけ、試験穿刺を試みた
シリンジに引けてきた液体は、純血液と思われる程、濃い赤い色をしている
腹腔内出血である
肝臓も正常だ
その間、血圧は、さらに下がり、心拍数はさらに上がっていく
しかし、今は画像を使って出血源を探っている猶予などない、一刻を争う状態だ
輸血だって、今から手配しても最低2時間はかかるだろう
開腹しか救命の方法はない
小栗は、内頚静脈から採血した血液で血液型を判定し、 10単位の輸血オーダーを入れた
「先生、とれません」
駆血帯で駆血しても静脈が浮き出て来ないのだ
「血圧が低いのだから、動脈の流れを止めないように、もっとゆるく駆血した方がいいよ」
小栗は看護師にそう言った
しかし、それでもルートキープはできない様子だ
大至急、大量補液が必要なことは明らかにもかかわらず、ルートキープができないのは非常に困る
小栗がそう言うと、ナースの一人は早速準備を始めた
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません