2014/01/27
それを恒川が遮った
そして佐伯の顔を見ないで、前を向いて続ける
不妊治療目的の人や、シングルマザー希望の女性に、選び抜かれたドナーの精子を無料で提供しています
だから受精は昔に比べて容易になったと言える
妊娠には様々な問題が伴います
妊娠中に風疹などのウイルス感染をすれば胎児に悪い影響が出る
また、何かの疾患でどうしても、胎児に悪影響を及ぼす薬を使用しなければならないという場合だってあるかも知れない
妊娠出産における最大のリスクは出産時です
妊産婦の死亡はアメリカでさえ 10万出産に対して 60件くらい
児の周産期死亡は日本では 10万人に対して 3人程度です
恒川は続ける
雇用側からすれば、妊娠可能年齢の社員が多い職場ほど業務に支障が出る
特に、最近は女性医師の割合が増しているので、病院も業務に支障を来たす職場ということができる
女性の社会進出が加速している現在の日本の社会では、妊娠している時間的余裕など、もはやないのです
今、出産のできる病院は急速に減っている
婦人科はあっても産科はないという病院はいくらでもあるでしょう?
現に、うちの病院がそうで、 10年くらい前は 2人の常勤産科医がいて、年に 100件以上のお産を扱っていたそうです
出産時のリスクや増加する周産期訴訟を恐れて産科をやめる産婦人科医は多いし、大学の産婦人科医局も、ある程度纏った数の産科医を派遣できない場合は、関連病院でさえ、産科医を引き揚げるなどの対策を取っています
現代社会の構造に問題の根源があって、政府が打ち出す小手先の政策では、もはやどうにもならなくなっている
「人工子宮」 の開発を国家規模で推進する、というのはどうかと僕は考えている
しかし、 iPS細胞から臓器が作られようとしている現代、 AFUができないわけがない
でも AFU研究は、多分に倫理的問題を内蔵していて、今の日本の社会通念では正当化できないのかも知れない
夫が精子を提供し、妻は卵子を提供し、あとは AFUラボで受精させ、受精卵は AFU内で育てる
AFUはコンピューター管理のもとに、細胞分裂の時期に応じたホルモンの供給調節とか、人工胎盤と繋がる臍帯からの栄養補給とか、羊水の微量生体物質の調整とか、温度管理とか、感染対策などを、母体を完全にシュミレートした形で行い、 「出産」 まで 「胎児」 を育てる
もちろん受精卵の遺伝子診断も、安全にできる
胎児がどのように成長しているかは、両親が自分達の目で直接観察できる
母親は通常妊娠に伴う体型の変化が起きることもなく、日常の仕事に専念できる
当面は富裕層のみの利用ということになるかも知れないが、コストダウンにより、いずれは一般にも普及する
いつでも、何人でも子供を作ることができるわけで、結果、少子化に歯止めがかかる
2歳ごろまでは育児会社が子育てを代行する
そのたびに母は仕事を休んで子を病院に連れてゆかねばならない
定期予防接種もある
これらを全て代行するサービスを提供するということになれば、需要は必ずある
現に育児ノイローゼとか、母による子供の虐待が社会問題になってますよね
一人の 「養育師」 が 1から 3名の子を養育します
その間はその養育師が子の母ですから、躾もします
まあ、言ってみれば昔の乳母 (めのと) みたいなものかな
「養育師」 は保育士とは異なる新たな国家資格とします
いつもは物静かな恒川だが、今日はなぜか熱い
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません