2014/06/03
西澤はそのまま、当直業務に入らざるを得なかった
今日は外来診療に忙殺され、昼食をとる暇もなかった
CTで左下肺野に広汎な肺炎像があり、入院
尿中肺炎球菌抗原が陽性であった
裂傷があったが、深くないので、縫合はせず、生食で洗浄後、裂傷用のテープで傷の固定をした
CTを撮るとクモ膜下出血があり入院とし、脳外スタンバイドクターをコールした
肺に異常陰影はなかったが、尿の白血球が無数であり、腎盂腎炎として入院
釣り針の直径は 1.5mmほどもある
釣り針の誤刺は、教科書には 「引き抜かず (釣り針には 「返し」 があるから) 、そのまま更に進めて刺入側と反対側から出す」 とされている
長いから進めるのも困難で、下手すると骨に当たってしまう
こういう時は、傷を大きくすることを覚悟で、ペンチで引き抜くしかない
太い釣り針は 「返し」 も太いから、折れて皮下に残る心配はない
「返し」 があるだろう方向の皮膚から皮下にメスで、切れ目を入れてから、ペンチで釣り針を強く把持し、一気に引き抜いた
「返し」 を強引に引き抜けば、血管や神経や腱を損傷する場合もあるが、幸い、つり針は、そのような場所には刺さっていなかった
時計は午前1時をまわっていた
救急隊からの連絡
「 22歳女性、自宅で意識がなく、尿失禁しているのを家人が発見、心拍、呼吸ともあります」
「脳血管障害にしては若すぎる」
「クモ膜下出血ならありうるが」
西澤は少し疲れ気味の頭で思いを巡らせた
救急車は、 5分も経たないうちに到着した
救急隊のストレッチャーにのせられている患者の顔を覗き込んで驚いた
何と、昼間、嘔吐を主訴に母親とともに受診した、あの患者ではないか!
そうこうしているうちに、血液検査 (入院セット) の結果が出た
並ぶ数字の中に、際立って高い値の項目がある
それは血糖値
826mg/dl
念のため追加オーダーしたヘモグロビンA1c値は5.1%と、ごく正常であった
西澤はため息をついた
昼間だって血液検査はしたが、残念なことに 「消化器セット」 の中には血糖値が入っていなかった
妊娠反応を調べるために採尿までしておきながら、肝腎の 「尿セット」 はオーダーしなかった
尿糖高度陽性、ケトン体陽性と出たはずである
そうすれば、血糖値をチェックし、入院により、インスリン投与や輸液をすぐに開始できた
深夜、昏睡で搬送されることなど、なかったのである
あとになって考えれば、昼間の受信時に血圧が低くて心拍数が高かったことは奇妙だった
この患者がつい数日前まで血糖値が正常であったことを示す
すなわち、急激に発症する糖尿病、「劇症型糖尿病」だったのだろう
※ この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありませが、医学的記述に関しては間違っていないはずです