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No.329 僕の考える理想の医者

2014/06/16

メディアなどで、しばしば取上げられる理想の医師像とは

おおむね、次のようなものではなかろうか

  • 患者目線に立って、優しく、真摯に医療をおこなう
  • 患者や家族の人生に共鳴し、また適切な指導をする

この中に 「優秀な医療技術を持っていること」 が入っていないのは

「医者が医療技術に長けていることは当然のこと」

という前提があるからかも知れない

いや、むしろ

「名医でなくても良医であれ」

なんて言われたりもする

ここでの 「名医」 とは、医学的技量に秀でている医者ということだろう
そして 「良医」 とは、それ以外の部分で優れている医者のことをさすのだろう

これら、 「理想の医師像」 は、漠然過ぎて、僕には少々分かりづらい

そこで、以下、感じたままに、具体的に羅列的に述べてゆく

A ) 僕が考える理想の医者 ー診療に関してー

  1. 診断が的確であること
  2. 治療上の判断や決断が速く、かつ正確であること
  3. 熟練していて、手技が確実であること
  4. いつも最新の医療情報に通じていること
  5. 医療分野に関して、専門を超えた広範囲の知識を有していること
  6. 自分一人では解決できない時は、時期を逃さず、他の専門家に紹介する

と、ここまでは、医者として当然の条件である

しかし、意外かも知れないが

これらは、キャリアの長短とは、あまり関係がないし、医者の誰もが、このようなスキルを持っているわけでもない
同じような医学教育を受けても、同じような臨床経験をしても、「筋の良し悪し」や、自己研鑽のやりかたなどによって、技量に差がつく

一般に疾患は、マニュアルどおりに管理できる場合は少なく、予想外の展開や、予期しない合併症が起きるのは常で、これらの対処法に関しては正解がないことが多い
不測の事態に迅速に対処するためには臨床的センス、すなわち的確な判断と決断力が必要となる

B)僕が考える理想の医者 ー患者やスタッフとの関係ー

  1. 患者やスタッフにはいつも笑顔で挨拶をする
  2. 診療中は患者の目を見る
  3. 声がよく通り、滑舌がよく、心地よい音質である
  4. 患者の言い分については、たとえそれが誤りであっても、頭から否定しない
    診療は、正論を戦わせる場ではないのだから
  5. 患者には基本的には敬語を使い、高齢者に対しても 「どうしたの?」 などの物言いは避ける
    「どうなさいましたか?」 と聞かれて悪い気のする人はいないはずだ
  6. 外来診療を、医者、患者ともに楽しいものにする工夫をする
    そこにはユーモアや、限られた時間の中での世間話も必要であろう
  7. 検査結果の説明はその日にする
  8. 入院患者や家族への病状説明は何度もおこなう
  9. 病状説明では、予後が悪い患者の場合、悪い面だけを強調することなく、少しでも希望の持てる話を混ぜる
  10. 患者や患者の家族の気持ちになって考える

C)僕が考える理想の医者 ー観察に関してー

  1. 患者の訴えは、すべてカルテに記載する
  2. 患者が、症状を訴えやすい、もしくは何かを訊ねやすい雰囲気を醸し出す
  3. 重症患者は病状が刻一刻と変化するので、 1日に何度も診察をする
  4. 回診は 1日のうちで、できるだけ早い時刻に行い、ナースへの指示出しを済ませる
  5. 入院患者の食事どきに、訪室して、食行動の状態を観察する
  6. 看護記録を読んで、深夜の出来事など、回診では知りえなかった事実を把握する

D)僕が考える理想の医者 ーその他ー

  1. 看護師や、他の医療スタップには紳士的に接する
  2. いかなる状況でも、患者やスタッフに対しては感情的にならない
  3. かかってきた電話には機嫌よく、明るい声で応答する
  4. 病棟や外来からコールがあったら、できるだけすぐ行く
  5. 患者が保険会社などに提出する書類は、依頼があれば、速やかに完成させる
  6. 患者の病状についての看護師の報告を尊重する
    (気軽に報告できる雰囲気を醸成する)
  7. 深夜の救急患者にも、機嫌よく応対する
    (起こされて寝起きが悪い医者は機嫌が悪いことが多い)


さて、このうち、世で言う名医は、 A

そして、良医が、 B
ということになるのだろう

だとすると、 「名医でなくても良医であれ」

という表現は間違いだ

「名医であり、かつ良医であれ」

が正しい

極論すれば

医者は患者を治す仕事だから、的確な治療で速やかに治すことが本分であり、たとえ良医でなくも、ぶっきらぼうでも、患者側の気持ちがわからなくても、病気が治ればそれで充分なのだ
ただ、世の中には、今の医学では治せない病気もたくさんあるから、その場合は 「良医」 であることも求められる

因みに自分は一体どうなのかと問われると

A 、 B に関しては理想を実践できているとは言いがたい面が多いような気がするが、理想に近づく努力はしているつもりだ

なお、 C 、 D は

僕が日常で実行したいと思っていて、実はあまりできていないのかも知れない項目を列挙してみただけである
全国の医師の皆様は、ごく日常的に、できているかもしれないが

結局、医者の本分を全うする基本的姿勢は

「よく観察する」 と、 「他人を容認する」 ということに尽きる
そしてこれは、すべての職種、いや、人が生きていく上で必要なことではなかろうか?

と、柄にもなく、真面目な話を書いてしまった

慙愧!

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