2015/04/20
医者になって 37年間、当直業務に携わっている
週に 1回当直をしたとして 1924回
実際は休日当直があったり、週に数回当直をしていた時期もあるから、概算するとおそらく 3000回、換算すると 45000時間以上当直をしてきたことになる
翌朝通常業務開始前で終るが、当直明けの日も通常業務をおこなうから、前日から計算すると 32~ 36時間、ずっと病院にいることになる
おまけに当直中に入院した患者の主治医となることが多いから、重症患者を入院させようものなら当直明けといえども病院に詰めていなければならず、そんな時は病院滞在時間は 36時間どころではなくなってしまう
深夜にどんどん救急車がくる状態ではないので、仮眠をとることができるけれど、救急部門のあった病院勤務の時は確かにハードだった
3日に一度のペースで当直が入り、一晩に 10名以上の救急患者を入院させるなどということも珍しくなく、そんな翌日は多忙を極めた
こんな生活は若いから耐えられたのだと思う
そんな病院時代の話
ある心肺停止状態の患者が搬送されてきた時のことである
蘇生術として体外式心臓マッサージをおこなっていたら、付き添ってきた患者の家族の一人から 「なぜ開胸心マッサージをしてくれないんですか?」 と詰め寄られた
開胸式心臓マッサージとは、胸部を切開して心臓を露出し、術者の手で心臓を揉む蘇生術であるが、通常急外ではめったに行わない手技である
むろん、その症例は開胸心マッサージが救命につながるような患者でなかった
テレビドラマか何かで得た知識なのであろうが、僕は一瞬回答に困った
瞳孔は完全散瞳しているし、体はすでに冷たくなっていて、死後少なくても 1時間以上が経過していると思われた
そこで、心肺蘇生術はあえておこなわず、付き添ってきた患者の家族に死亡宣告をしたところ、家族は興奮した面持ちで 「救急隊員があんなに一生懸命心臓マッサージをしてくれていたのに、なぜ先生は何もしてくれないんですか?」 と詰問した
僕は仕方なく
儀式としての心臓マッサージをおこない、血管確保をして血液検査を出し、挿管 ・ 人工呼吸をしたが、もちろん蘇生できるわけもなかった
救急隊員が車内で行っていた蘇生術は、死亡宣告をする権限のない救急隊員であるから仕方のない行動だったろうが、家族には真実が伝わっていなかったのだろう
初めから外科医が診療したが、やはり圧倒的に多いのが内科領域の症例である
なぜなら、たとえ結局は手術を必要とするような疾患であっても、受診時の症状は、腹痛、胸痛、意識障害など、内科的なものが多いからである
ウォークインの急患を手際よく診断していくのは、当直入りして数時間はよいが、夜明けに近くなるとさすがにしんどい
ざっと挙げてもこんなにある
もっとたくさんの急を要する疾患があるはずだ
これらの疾患を、スピードをもって、正確に診断してゆくのにはそれなりのトレーニングが必要であるが、当直業務そのものもトレーニングであることは間違いない
指導医は確かに必要だが、何より経験を積み重ねることで勘が身につく
だから、一症例でも多く救急患者を診ることこそがスキルアップにつながる
心肺停止状態で搬送された症例以外は、救急室を出る時には診断がほぼついていた
転科したあとの経過を全て知っているわけではないので、僕が初療をおこなった救急患者の最終的な救命率はよくわからない
正直、何が来るか、わからないから怖いのだ
いざ、救急患者を受け入れ始めると、怖さなどふっとんでしまった
僕の副腎からは アドレナリンと コルチゾールが、いっぱい分泌されていたのだろう
気分は高揚し、火事場の馬鹿力が出た
そして、朝までこれで突っ走ったのである