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No.392 健康寿命?

2015/07/28

近年この言葉が流行していて

「健康寿命を伸ばそう」 などと、盛んに使われる
健康寿命って一体なんだろうか?

「第 2次健康日本 21」 では次のように定義している

「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」
当然のことながら 「健康寿命」 は男女とも 「平均寿命」 よりも数年短い

例を出す

95歳で亡くなった人がいるとする
青年時代に結核をわずらい、 5年間サナトリウム生活を送り、以後は健康に暮らし、 90歳のとき脳梗塞を発症して寝たきりとなり 95歳で亡くなった、とすれば、この人の健康寿命は 95マイナス 5マイナス 5= 85歳ということになる

一見分かりやすい概念のように見えるが、実はそう簡単ではない

たとえば、日常生活が多少制限されても自分は健康と感じている人だっている

「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策に費用対効果に関する研究班」 というやたら長い名前の組織が出している 「健康寿命の算定方法の指針」 というものがあるのだが、 38ページにわたる代物で、全文を読んでみたが、結局よくわからないというのが僕の本音である

この指針を、かいつまんでポイントだけ整理すると

国民全員に関して、いま健康か否かを確認することなど、到底不可能であるから、ランダムに対象を選び出して アンケートに答えてもらい、それを基礎資料とする
そして、そのデータや他の関係データなどを、数学者が用いるようなとても複雑怪奇な計算式 ( 「付録」 に載っている) に代入すると健康寿命が ぱっと出る仕組みができている
もちろん計算はコンピュータがおこなう (エクセル型式) が、その計算式がどれほどの妥当性があるものなのか、一般人にはまったく理解できないのではないだろうか


健康寿命を伸ばす方法が確立していれば

皆、その方法に従うだろう
しかし、その方法に関して何の エビデンスもない現況では、 「こうすれば健康寿命が延びるはずだ」 という推量のレベルといえる

病気や事故は予期しない時に、一定の確率で起きるもので

「生活習慣が悪かったから当然」 起きるわけではないし、病気に関しては遺伝子レベルで、起きる時期まで決まっているとも言われるから、健康寿命を延ばそうと、じたばた努力してみたところで、その努力が報われるとは限らない

いっそのこと、 「健康寿命など、なるようにしかならないさ」 と気楽に考えて、毎日楽しく過ごすほうが利口なのかも知れない


さて、医学的な話を少しする

健康寿命を最も損なう疾患は、現時点では恐らく脳梗塞と認知症であろう
認知症のかなりの原因は脳梗塞であるから、突き詰めれば脳梗塞を予防することが健康寿命を伸ばす最良の方法ということになる

脳梗塞の中でも

社会復帰不可能になるほど重症な脳梗塞の原因は脳塞栓が大部分である
脳塞栓の原因は慢性心房細動である
だから、さらに突き詰めれば、 「健康寿命を延ばすためには、心房細動をいち早く見つけて血栓が脳に詰まるのを防止するある種の薬を飲み続けること、もしくは慢性心房細動を正しい脈に戻すためのカテーテルアブレーションという手術を受けること」 という論理が出来上がる

不幸なことに慢性心房細動は無自覚のことが多い

だから、健診などを定期的に受ける最大の利点は、慢性心房細動が発見されることなのかも知れない

ああ、そうだ

結局のところ、定期的に健康診断を受けることこそが、健康寿命を延ばす最も簡単な方法なのだ
と、これを書きながら、 「健診部長」 Kは、なかば強引に、そしてごく当たり前の結論に達したのであった??

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