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chap.021 夢のまた夢

2016/01/19

日本、 米国、 英国、 ヨーロッパの 糖尿病学会では

年間 夥しい研究成果が発表され、世界の 著明な糖尿病学専門誌には、毎月 何千という論文が掲載されてきました
それにもかかわらず、糖尿病患者は 一向に減る傾向はなく、むしろ 結構な勢いで増加しているとさえいわれています

糖尿病治療の歴史は古く、約80年前に インスリン注射が実用化されました

そして、約60年前には、当時画期的とされた 「内服できる 血糖降下薬 (SU剤、ビグアナイド) 」 が実用化され、これらは 現在に至るまで使用され続けています

いっぽう、過去 約30年間で

糖尿病の治療薬は 上記以外にも、作用機序の異なる、さまざまな種類が開発され、また、インスリンの カートリッジ式注射器や 小型の血糖値自己測定器などが開発されてきました

その例を思いつくまま挙げると

  1. 遺伝子組み換え ヒトインスリン (ヒューマリンなど)
  2. ペン型 インスリン自己注射器
  3. 速効型と 中間型インスリンの 混合製剤 (ペンフィル 30Rなど)
  4. インスリン感受性を改善する作用を兼ね備えた SU剤 (アマリール)
  5. 超速効型の インスリン分泌刺激内服薬 (ファスティックなど)
  6. 腸管からの ブドウ糖吸収を阻害する内服薬 (ベイスンなど)
  7. 超即効型 インスリンアナログ (ノボラピッドなど)
  8. 持効型 インスリンアナログ (ランタス、トレシーバなど)
  9. インスリン抵抗性改善薬 (アクトス)
  10. 針を使わず、圧力だけで インスリンを皮下に注入する インスリン注入器
  11. 腕に装着するだけで 血糖値を連続的に表示する 腕時計型血糖測定器
  12. 吸入型 インスリン、インスリン座薬、インスリンの内服製剤
  13. 生理的に インスリン分泌を促す物質である 「インクレチン」 の作用を増強する内服薬 (ジャヌビアなど)
  14. インクレチン (GLP-1) 受容体作動薬 (ビクトーザなど)
  15. 携帯型 インスリン持続注入装置
  16. 体内埋め込み型 インスリンポンプ
  17. ブドウ糖を 尿から排泄させる SGLT-2阻害薬 (フォシーガなど)
  18. 糖尿病神経障害の治療薬 (キネダック)

このうち 10. は自然に使われなくなり、 11. は結局日本に導入されず、 12. は 現在すでに販売されていませんし、 16. も実用化しませんでした

これだけの開発がありながら

糖尿病患者さんの血糖値コントロールが この 30年間で飛躍的に改善したのでしょうか?

たとえば

10年ごとに 世界の糖尿病患者の血糖値コントロールが改善しているのかを調査する方法があれば解答は出るのでしょうが、そんな良い方法がありません
だから 結局のところ、治療法の進歩が 糖尿病の経過を改善するのに役立っているのか否か、誰にもわからないのです

糖尿病患者数は 世界中で きわめて多く

途上国の 生活水準の上昇にともない 更に増加してゆくことは間違いないので、糖尿病関連の 医薬品の市場は とても大きく、製薬メーカーは 新薬の開発に しのぎを削っています

糖尿病薬の開発は、糖代謝のメカニズムに基づいて行われます

ですから、学会や 論文によって 新しい ヒントが得られれば、製薬メーカーは 理論的な 「創薬」 に着手します
その結果が 上の 1.18. なのです
どれも 「画期的」 などの宣伝文句で、鳴り物入りで発表されましたが、たいていのものは 「糖尿病の治療を 根本から変えるのではないか」 との期待を あっさり裏切り、大したものではありませんでした
中には 副作用による死亡例が出て 発売中止に至ったものさえありました

残念ながら、本当に 「画期的」 という治療薬は存在しないのが現状です


コレステロール低下薬 (スタチン系) や、降圧薬 (カルシウム拮抗薬)

服薬していれば、健康人と ほぼ同じ食生活をしていてもコレステロール値や 血圧は正常に保たれます
しかし、糖尿病薬は、これを きちんと使用していても、食事療法や 運動を 続けていなければ 血糖値コントロールは悪くなります

「糖尿病でない人と 同じような食事を 好きなだけ食べても 血糖値が正常に保たれる」 といったものが理想なのですが

現時点では 「夢のまた夢」 といったところです

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