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chap.023 副作用

2016/03/16

最近の話です

高血圧などで 定期受診している 72歳の女性が、 「このごろ毎日下痢で困っています」 と訴えられました

医師は、投薬中の患者さんが 新しい症状を訴えた場合

まず 使用中の薬剤の副作用ではないか と考える習慣を身につけています

投薬内容を調べると、降圧薬として オルメサルタンがあります

オルメサルタンは 日本の製薬メーカーが開発して、日本では 2004年に 薬価収載された (発売された) 薬で、降圧効果も優れていて、現在は 多くの国で使用されていますが、 調べると、 2012年に 米国メイヨークリニックから 22例の 吸収不良症候群 (セリアックスプルーという グルテンが原因の 欧米人に多い病態、組織に酷似している) が報告されています

日本でも オルメサルタンを投与されている患者で

下痢、 食欲不振、 栄養失調の症例があり、これを受けて 2013年 11月に 「使用上の注意」 が改訂され、副作用欄に 新たに 「体重減少をともなう 重度の下痢」 が追加されています

この女性は 2年間ほど オルメサルタンを使用していましたが

これまでは 何の副作用も 出ていませんでした
今までの報告によると、比較的長期間使用した人に スプルー様症状が出るようで、本来 栄養を吸収する部位である 小腸上皮が オルメサルタンの 長期使用によって 萎縮することがあり、そうなれば 食べたものが吸収されず、栄養失調状態になる ということがわかっているようです

外国での発売は 2002年ですから

10年もの間、この重大な副作用が 世に知られないまま オルメサルタンは 世界で使用し続けられたということになります
恐らく 10年の間に 何例も スプルー様症状を呈した人はいたのでしょうが、オルメサルタンと同様の機序で 血圧を下げる 他の数種の薬剤では このような副作用がなかったことから、医師らは 気付くことがなかったのかも知れません

私も、オルメサルタンの 添付文書を確認するまでは

副作用が 追加されていたことを知りませんでしたし、これまで多くの人に オルメサルタンを処方していても、下痢や 消化器症状を訴える人は いませんでした
恐らく、遺伝子的に 何かの特徴を持った人だけに起きる 稀な副作用だったのでしょう
このように、薬 (医療機関で処方される薬以外も) には 副作用がつきものであることを 常に認識することは大切です

普通、いわゆる 「副作用」 は

処方開始から 2ヶ月以内に起きることが殆どではありますが、オルメサルタンのように 長期間服用して はじめて出現する副作用もありうるということを 医師も 患者も 知っていなければなりません
因みに オルメサルタンを服用してから スプルー様症状が出るまでの期間は 1年くらいから始まり、平均は 3年間程度といわれているそうです

なお、 72歳の女性は

オルメサルタンを中止した 2週間後には 下痢は止まり、食欲も出て とても元気になりました

オルメサルタンによる小腸絨毛の変性は 可逆的とされているので

早く気付いて 服薬を中止することが 極めて大切です

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