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No.209 ナイフ

2013/01/29

内科医、杉田研作は身の危険を感じていた

外はもう暗い

会計カウンターの前

東新記念病院のスタッフが遠巻きに取り囲む中心にいるのは近藤栄太郎である
そして、今、彼は杉田と向かい合っている

近藤栄太郎

67歳とは言え、筋骨は年齢の割に逞しい
近藤の右手には、果物ナイフが握られている
「てめぇ ぶっ殺してやる!」
近藤が大きな声を出す

彼は本気であるらしく

ナイフを自分の腰に固定して、刃を水平に構え、今にでも体当たりして来そうな雰囲だ
杉田が後ずさりすると、近藤はにじり寄ってくるので、間合いが、縮まらない

「俺は この間までムショにいたんだ」

「1人殺すも2人殺すも同じだからな」
彼が凄む


近藤栄太郎は

高血圧と糖尿病があり、杉田の外来に通院している患者である
そして、今日の午前中の外来診療を受けた

その時の様子

近藤 : 「先生の外来に通うようになって、とても良くなったよ」

近藤 : 「先生は名医だね 俺は友達にもそう言っているんだ」

満面の笑顔で、確かそんなことを言っていた

その診療中

「睡眠薬を 2ヶ月分処方してほしい」 と彼が言ったので
杉田は、 「睡眠薬だけは長期投与ができないのです」 と断った

近藤は 「そこを何とか」 と言う

杉田は、「そういう取り決めを国がしているので仕方ありません」
と答えるしかなかった
このとき、近藤の表情が曇ったのが少し気がかりだった


杉田は咄嗟に、同僚医師である須田公彦を呼ぼうと院内PHSを手に取った

その瞬間、どこから現れたのか、須田が近くの座椅子を持ち上げると、近藤に向かって一気に突き進んだ

大男の元ラガーマンの猛進に、 67歳の小男は たじろいだ

そして、なすすべを失った彼は、椅子の脚と壁の間に挟まれて身動きができない状態である

須田が近藤のナイフを持つ右手を蹴り上げると、ナイフは、コロンコロンと音を立てながらロビーの床を転がった

誰かが通報したのだろう

まもなく数人の警官が玄関から入ってきた
刑務所の件はともかく、前科があるのは事実らしく、警察でもすぐに身元確認ができたようで、警官に取り押さえられた近藤は病院を後にした

「刺又って知ってるか?」

須田は杉田に尋ねた

「えっ、 さ す ま た?」

聞き返す杉田に 須田は
「椅子とハサミは使いようってことだよ  特にこの病院ではな」
そう言って、にやりと笑った

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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