ホーム > 川口正展のなるほどザ・メディスン > chap.010 ピロリ菌について
2015/03/04
小児期に感染して、胃液の塩酸 (pH=2) に耐えて生存し続け、やがては萎縮性胃炎 (腸上皮化生) を引き起こし、腸上皮化生部分から胃癌が発生するという、くせ者です
胃のリンパ腫 (MALTリンパ腫) や、特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) 、慢性蕁麻疹など、さまざまな疾患を引き起こすことがわかってきました
食塩過量摂取が胃癌の原因の一つともされてきましたが、HPに感染していない人が多量に食塩を摂取しても胃癌にならないことがわかり、食塩説は否定的となりました
先進国では若年者にはほとんど保菌者がいなくて、年齢が長ずるにしたがって保菌者の割合が増加します
ちなみに我が国の HP感染率は、 10~ 20歳代の 20%以下に対して、 50歳代以上では 80%ときわめて多くなります
井戸水とか川の水を飲むことにより感染が成立すると考えられています
土の中には HPがいるらしいのです
今の子供は感染しにくいのですが、先進国といえども、 60年~ 80年前は飲料水が井戸水だったりして、当時の子供は不衛生な環境で育ったわけで、その時期に感染が成立したのでしょう
また、ハエやゴキブリが HPを媒介するとの報告もあり、ともかく衛生状態が良くないところで育った子供は HPに感染しやすくなります
ほとんどない、と考えられて来ましたが、 HPの除菌治療に成功したあとの再感染率が 1%ほどある事実を考えると、大人であっても、手づかみで物を食べたりする習慣は良くないのかもしれません
保菌者とのキスや、杯のやりとりで感染するとする証拠は、今のところまだありません
感染がわかれば、除菌療法をします
抗生物質などを組み合わせた多剤併用療法を 1週間おこなうと、たいていの場合、除菌に成功します。
除菌前までは HPがいたわけで、すでに萎縮性胃炎を起こしていれば、除菌後も胃癌にかかる可能性がある点を忘れず、胃カメラなど、定期健診を忘れずにおこなうことが重要です