ホーム > 川口正展のなるほどザ・メディスン > chap.014 マダニと重症熱性血小板減少症候群
2015/06/17
マダニに食いつかれている患者さんが夜間の救急外来を受診されました
家族が取り除こうとしても、しっかりと皮膚に食い込んでいて、何をしても除去できなかったとのことでした
マダニは皮膚への接着力がきわめて強いので、毛抜きなどでも除去できない場合、病院ではマダニの食いついている部分を皮膚ごと切開して虫体を取り除きます
4月中旬から 11月下旬はマダニの活動する季節で、特に夏には注意が必要です
咬まれて重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) に感染し、発病後 1週間で死亡した宮崎県の女性の例が記憶に新しいところです
人間にとんでもない悪さをすることで有名であり、 SFTS以外にも 日本紅斑熱、 Q熱、 ライム病、 回帰熱などの、死亡にもつながりかねない、やっかいな疾患を引き起こすことが知られています
野山や草むらで、マダニはヒトを含めた哺乳類が通るのを待っていて、見つけると草木の上から降りてきて、露出している皮膚に噛み付いてとりつきます
宿主から簡単にははがれ落ちないように、口器からセメント様の物質を出して自分の体を固定します
このため、マダニは 1週間から 10日間は噛み付いたまま離れず宿主の血液を吸い続け、ダニの体は血液でいっぱいとなり、待ち針の頭以上の大きさにまでふくれ上がります
気付いたら皮膚に何かくっついていて、なかなか取り除けない場合はマダニの可能性があります
国内では 2013年に SFTSウイルス感染による死亡例が始めて報告されました
ダニに咬まれてから 6日から 2週間程度の潜伏期をへて、熱発、消化器症状 (嘔吐、下痢、腹痛) などが始まり、重症例では血球貪食症候群による血小板減少から出血による紫斑が出ます
頭痛、筋肉痛、意識障害、痙攣なども起き、 MERSと同様、 SFTSを疑わない限り、原因不明の熱性疾患として診断に難渋する場合もあります
治療はあくまで対症療法となり、そのため発症すると 6~ 30%が死亡するという恐ろしいデータがあります (中国のデータ)
なお、日本では、 「感染症発症動向調査」 で届けられた SFTS症例は 2015年 5月 20日現在で 116名であり、そのうち 34例が死亡しています
2015年のデータでは関西以西だけが感染地域として発表されています
熊、狸、狐、イノシシなどの野生動物が人里に出没するようになったことが挙げられています
野生動物の体に付着するマダニが落ちることによって、集落の草むらにマダニが存在するようになったらしいのです
ですから山や森や林に立ち入らなくても、畑の草刈りなどによってもマダニ攻撃を受けることが増えたというわけです
草むらで犬にマダニが取り付き、家の中でそのダニが人に移るということもあります
ですから、飼い犬や飼い猫と寄り添って寝る、などは危険行為と考えてください
以上の 「対策」 は、広島県のホームページに掲載されていました
でも、これが毎日となるとちょっと大変ですね
なお 「マダニの中腸に由来する糖蛋白の遺伝子組み換えしたものを SFTSワクチンとして用いる方法がオーストラリアや中南米で実用化されている」 とウィキにはありました
近い将来、日本での使用もできるようになるかも知れません