2013/04/22
前回の話 : 謎の脳萎縮
いわゆる脳萎縮というやつだ
「銀次郎さんの年齢なら仕方ないか」
と、一瞬思った
このくらい脳萎縮が進んでいるのなら、認知症症状が出たとしても、特段不思議なことではない
古い脳梗塞巣らしき黒い部分が一つもないのである
すなわち、いつも見慣れている、高齢者の脳萎縮像とは、明らかに何か異なる
加齢による脳萎縮は、一般的に、徐々に進行するものである
急に認知症症状が出るなんてことはありえない
この抗痙攣薬の添付文書の副作用欄には 「脳萎縮」 という記載がある
杉田はそのことは知っていたが、 「バルプロ酸を服用している人に、たまたまそういった例があったから記載しただけで、バルプロ酸が原因とは限らないのだろう」 くらいにしか考えていなかった
バルプロ酸は、抗てんかん薬の代表的な薬剤で、実際、これまで多くのバルプロ酸服用者を見てきたが、認知症症状を来たして困った症例など1例もなかった
しかし、やはり気になる
研修医時代の文献検索は 1日を費やす大仕事だった
しかし、今は情報技術発達の恩恵で、すぐにその英語文献は手に入った
論文のタイトルは 「バルプロ酸による一過性脳萎縮の一例」
バルプロ酸を服用して、全脳萎縮に陥った症例があったこと
そして、バルプロ酸の服用を中止したところ、すみやかに脳萎縮が回復したこと
「これだ!」
なぜこの抗痙攣薬が処方されたのか、その経緯を尋ねた
佳代夫人 :
「少し前、主人が夜中に手がピクピク動いた時期があったんです」
「そのことを三橋先生に言ったら、この薬を処方されました」
を話し、デパケンの服用を中止することを説明した
谷口銀次郎氏は、 30歳ほど年下だろうか、佳代夫人とともに、仲良く外来に現れた
佳代 : 「主人、もとのようになりました、先生のおっしゃる通りでした」
そこには佳代夫人の嬉しそうな笑顔があった
銀次郎さんは、元の賢いダンディーな、女たらし(?)に戻った
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません