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No.236 認知症が治った

2013/04/22

前回の話 : 謎の脳萎縮

杉田が銀次郎さんの頭部CTを見ると、脳全体が縮んで見える

いわゆる脳萎縮というやつだ

「銀次郎さんの年齢なら仕方ないか」

と、一瞬思った

このくらい脳萎縮が進んでいるのなら、認知症症状が出たとしても、特段不思議なことではない

しかし、CT像をよく見ていると、奇妙なことに気づいた

古い脳梗塞巣らしき黒い部分が一つもないのである
すなわち、いつも見慣れている、高齢者の脳萎縮像とは、明らかに何か異なる

「少し前までは全く普通の人だった」 と言う夫人の言葉も気になった

加齢による脳萎縮は、一般的に、徐々に進行するものである
急に認知症症状が出るなんてことはありえない

銀次郎さんの処方の中で、さっきから気になっていたバルプロ酸

この抗痙攣薬の添付文書の副作用欄には 「脳萎縮」 という記載がある

杉田はそのことは知っていたが、 「バルプロ酸を服用している人に、たまたまそういった例があったから記載しただけで、バルプロ酸が原因とは限らないのだろう」 くらいにしか考えていなかった

バルプロ酸は、抗てんかん薬の代表的な薬剤で、実際、これまで多くのバルプロ酸服用者を見てきたが、認知症症状を来たして困った症例など1例もなかった

しかし、やはり気になる

杉田は文献を調べることにした

研修医時代の文献検索は 1日を費やす大仕事だった
しかし、今は情報技術発達の恩恵で、すぐにその英語文献は手に入った

論文のタイトルは 「バルプロ酸による一過性脳萎縮の一例」

その文献には驚くべきことが書かれていた

バルプロ酸を服用して、全脳萎縮に陥った症例があったこと
そして、バルプロ酸の服用を中止したところ、すみやかに脳萎縮が回復したこと

「これだ!」

杉田は、佳代夫人に

なぜこの抗痙攣薬が処方されたのか、その経緯を尋ねた

佳代夫人 :
「少し前、主人が夜中に手がピクピク動いた時期があったんです」
「そのことを三橋先生に言ったら、この薬を処方されました」

杉田は

  • バルプロ酸の副作用に脳萎縮があること
  • そして、それはバルプロ酸の中止で戻ること

を話し、デパケンの服用を中止することを説明した

2ヶ月後

谷口銀次郎氏は、 30歳ほど年下だろうか、佳代夫人とともに、仲良く外来に現れた

佳代 : 「主人、もとのようになりました、先生のおっしゃる通りでした」

そこには佳代夫人の嬉しそうな笑顔があった

CT画像には、 2ヶ月前とは別人のような、全く正常の脳が写っていた

銀次郎さんは、元の賢いダンディーな、女たらし(?)に戻った

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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