2014/01/14
「えっ、 CTを撮るんですか?」
「息子は 6歳の時アッペのオペしているんですけど」
あらためて少年の右下腹部をよく見ると、わずかな手術痕があるではないか
「まずい、何としたことだ」
「それにこの父親、いったい何者?」
航平の頭は混乱した
おそるおそる尋ねる航平に、少年の父親は小さな声で答えた
そして、父親はさらに続ける
「先生、パンツも脱がして診て下さいませんか?」
しどろもどろの航平は言われるままに少年のパンツを脱がせた
「そういえば、ヘルニアの嵌頓だってあったじゃないか」
今になって、鑑別診断が一つ浮かんだ
いや、少年の父親に教えられたようなものだが
少年はその途端 「痛い!」 と大きな声を出した
どうやら陰嚢の左側が痛みの中心のようだ
「先生、精索捻転じゃないでしょうか?」
「すぐ睾丸のカラードップラーをして下さいませんでしょうか」
言葉は丁寧だが、其の響きには凛としたものがあった
「はい」 というつもりが、 「あい」 になってしまった
これではどちらが主治医かわからない
左の睾丸が右よりもかなり大きくなっていて、内部には、全く血流がないように見える
しかし、航平はいままで精索捻転のエコーを見たことがなかったので自信がない
「そうだ、父親、いや先生を呼ぼう」
「睾丸捻転ですね」
発症後 6時間以上経過すると睾丸壊死が起きてしまう緊急疾患だ
幸いまだ 2時間弱しか経っていない
航平は急いで泌尿器科のオンコール田村医長に電話をした
すぐに手術が始まった
父親がドクターであったことが幸いして
「先生は泌尿器科ですか?」
「いえ、内科です」
「よし、これから腹痛患者は全員パンツを脱がすぞ」
- おわり -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません