2014/01/10
めずらしく夜間の患者がなく、ほっとしていた後期修医の佐伯航平は、夜勤の救急外来担当看護師から院内 PHS連絡を受けた
「腹痛の 14歳の男の子が来ます」
航平が救急室に行くと、まだ患者は到着していない
救外担当看護師が言う
「先生、また便秘か何かじゃないでしょうかね?」
中学生にしては体が大きく、両親に連れられて来たことには少し違和感があった
なんでも、未明に左下腹部痛で目が覚めたとのこと
「 14歳の腹痛」 とくれば、航平の頭の中に真っ先に浮かぶのは虫垂炎だった
いや、虫垂炎 「だけ」 だった
「常に 2番手を考えよ」 と先輩から教えらていたのだが ・ ・ ・
虫垂の位置ではない
先ほどのナースの言葉 「便秘」 が一瞬頭をよぎって消えた
これはいわゆる 「内臓痛」 である
「通常、虫垂炎の内臓痛は上腹部が多いが、別に左下腹部でもいいんじゃないか」
「痛いの?」
少年は、声にはしないが頷く
「虫垂炎ならエコーで一発診断だ」
エコーのプローブを右下腹部に当てた
プローブを強めに当てたり緩めたりしながら、腫れているだろう虫垂を探すのだが、それらしい姿は一向に画面に現れない
14歳という年齢を考えると、できるならば CTは避けたかったが、 CTを撮ると決めた航平は、その旨を少年の父親に説明した
すると、父親の答えは意外なものだった
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません