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No.285 恒川信彦

2014/01/24

46歳の恒川信彦は内科医長として 2ヶ月前に東新記念病院に着任した

彼の経歴の詳細は事務長と院長しか知らないが、元産婦人科の開業医であったという噂がまことしやかに広がっている

後期研修医の佐伯航平は

恒川と同時入職であったため、佐伯は恒川を頼ることが多い

さて、東新記念病院は

大学病院との連携を持ってはいたが、大学の特定の医局からの医師派遣は受けていない

これには一長一短がある

すなわち医師が開業などで辞職した時に代替医師を大学医局が派遣してくれることがなく、病院は独力で別の医師を確保しなければならないのが短所

いっぽう長所は

大学医局が自らの都合で 「派遣医師を全員引き揚げる」 などという、他の中小病院でよく話題になるような事件は起きないという所である

大学医局と 「つかず離れず」 の関係を保って行くことは容易ではないが、そこは院長の才覚であろうか、はたまた事務長の智恵であろうか、とにかく巧妙な手段で、支障なく医師数は充足していた

病床数は多くないが

先々代と先代の院長の強い指導力で、病院が各種の認定医研修指定を受けることができたことは、若い医師を集めるのに大いに役立っている

事務局の中には 「情報部」 という名の極秘部署がある

いわゆるヘッドハンティングを専門とするプロ集団であるが、病院の職員ではない、主に現役を引退した高齢者を中心として構成されている

そして彼らは外来患者として大規模病院に潜入し

時には入院までして、その病院の内情や、評判の良い医師の個人情報を探り当てる任務を負っている

「情報部」 は、院長さえも、その実態の詳細を知らされていない、いわば闇の集団であり、 「情報部」 というよりは 「諜報部」 に近い
当然のことながら、病院組織図にも載っていない

情報部員は様々の病院に、 「患者」 として送り込まれる

部員がその病院で、ある医師をマークすると、その医師の個人情報は徹底的に調べ上げられる

そのあとはプロのヘッドハンターにバトンタッチし、ハンターは得られた情報をもとに、巧みな話術で医師にアプローチし、破格の待遇を呈示する
最終的に、ほぼ 9割で移籍交渉が成立し、翌月には東新記念病院に着任するという

ヘッドハンティングにより

名の通った優秀な医師達が集まることで、若い医師や研修医らの指導体制は充実し、そのことでまた若い医師が集まる

若い医師は自分の技量を上げようと懸命に働く

だから病院は活気付く

また彼らの給料はかなり低く抑えられているから、人件費率が下がり、病院経営には誠に好都合である

有名医師のもとには遠くから多くの患者が集まるために病床利用率は高く、医業収支比率は年間を通して常に 120%を超える

東新記念病院は、故・東新吉が約 50年前に創業した個人病院である

通常、公的病院の場合、医師は卒業年次や入職年次により自動的に昇進、昇給が行われるが、東新記念病院は少し違う

基本的には自動的に昇進・昇給が行われるのだが

実績のある若い医師が入職 2年目で部長待遇になることもあるし、卒後数年の後期研修医が同期を追い越して医長に抜擢される場合だってある

実績といっても医師個人の病院に対する貢献度は評価が難しく

単に売り上げで比較することは無意味、個人の収益で比較することは不可能、診療人数で比較しても、それぞれの科の特殊性があり、反発が出る

実は、医師の価値は患者の評判が重要なのである

信頼される医師のもとに患者が集まる
だから東新記念病院では患者の評判を最も重視している
評判の良い医師イコール病院に必要とされる医師なのである

しかし、評判と技量とは必ずしも相関するとは限らないのは事実で

ぶっきらぼうだがめっぽう腕の立つ医師だっている

しかし、患者に好かれない医師は、いくら技量が優れていてもそれを発揮する場がないし、下手をすると、小さなことから訴訟問題に発展する可能性だってある

こんな人事システムを取っている割には

医師の間に、昇進・昇給に関する不満はほとんどないのは不思議なことである

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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