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No.394 生食文化

2015/08/03

ユネスコ無形文化遺産に登録される前から和食ブームは世界に広がっていた

和食が文化遺産として登録されたことは、日本人としては少し嬉しい気持ちにもなるが、僕には気がかりな点が多々ある

それは、日本人の食習慣には昔から 生食文化があることだ

魚介類の刺身に始まって

レバ刺、 馬刺、 生卵、 鶏の刺身、 生牡蠣、 生野菜サラダ、 生ビールなど、日常的な食習慣の中に 「生」 はいくらでも登場するが,元来、食材は加熱して食するのが基本であり、生が 「旨い」 理由は一つもない

旨味は

食材を加熱する時に出るアミノ酸の変化体が発するものであり、生ではそういった意味での旨みが出ない
もっとも 「食感を楽しむ」 という意味では生に勝るものがない食材もあるのだろうが


食材を加熱しないで食べるということは

ある程度のリスクを覚悟して食べるということであることに気付いていない人が、案外多いのではないだろうか?

デンジャラスな生食の例を挙げよう

サバ、 イカなどでは

アニサキスと呼ばれる寄生虫が肉の中に潜んでいることがあり、食したあと数時間で猛烈な胃痛が出て、夜間に救急外来を訪れることになる
僕はこんな患者さんを何度も診た

サーモン、鱒などの淡水魚には

「広節裂頭条虫」 という寄生虫卵が潜んでいる可能性があり、人間の腸内で虫卵は孵化して成虫となり、成長し続け、数ヶ月で数メートルの長さにもなる

沢蟹を、生や、不完全加熱して食べれば

「肺吸虫」 という怖い寄生虫に住み着かれる

牛肉をはじめとする獣肉やその内臓 (レバーなど) を生で食すれば、

「病原性大腸菌」 や 「サルモネラ菌」 の感染が成立し、食してから数日も経ってから下痢などの消化管症状で発症し、適切な治療がなされないと死に至ることさえある

豚肉は、決して生や、表面を炙っただけのような半生状態で食べるものではないことは知っておいてほしい

というのは、豚肉には 「有鉤条虫卵」 が入っていることがあり、ヒトの体内に入ると 「嚢虫」 となり、脳をはじめとしてあらゆる臓器に入り込み、駆虫薬では除去できないからだ

「地鶏の刺身」 などと銘打って出される料理だって、

鶏肉に特有の 「キャンピロバクター」 という バクテリアで汚染されていることがあり、食すると下痢や嘔吐などの消化器症状を起こすだけでなく、消化器症状がおさまってほっとした頃に 「ギランバレー症候群」 という、死に至ることさえある神経系の病気を発症する場合がある

また鶏卵を生で食すれば (玉子かけごはん : TKG)

サルモネラ菌感染が成立することがある (新鮮鶏卵の約 1%は サルモネラ菌に汚染されているという調査がある)

生牡蠣や貝類の刺身には

激しい下痢で有名な ノロウイルスが濃縮されて潜んでいることがあり、その場合は数日間苦しむことになる

そういえば、昔

同僚の、こともあろうに消化器内科の女医が、レバ刺大好き先生だったなあ
今、無事なのだろうか?

もちろん、 「生」 といっても、生ビールや 生蕎麦は大丈夫です

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