2016/03/08
顔が ややむくんでいる
酸素を 5L吸入しても 経皮的酸素飽和度は 90%までしか上がらないと 救急隊員は報告した
CTでは 肺門から 放射状に広がる陰影がある
肺水腫である
体温は 38.2℃、 CRPは 17.3 mg/dl、末梢白血球数は 12000と増加、心不全の指標である BNPは 324と、やはり高い
心電図では 心筋梗塞や 心筋症としての所見は見られない
しかし、血圧は 206/102 と異常に高い
普段の血圧は 本人申告によると 140-150 とのこと
ただし 毎日記録をつけているわけでもなく 詳細は不明である
この場合、心不全は 高血圧に起因する可能性が高く、 2008年の Mebazaaらによる 「クリニカルシナリオ分類 – CS分類」 では 「高血圧性心不全の第一選択は 血管拡張薬」 とあるが、肺水腫が強いから、どうしても 利尿薬を併用したくなる
そこで、ニトログリセリン持続静注を開始すると同時に ラシックス (利尿薬) を ショットで 数回静注、肺炎に対しては 喀痰が採取できないから 起炎菌不明のまま セフトリアキソンを投与することにした
「ラシックス」 という製品名の由来は 「lasting for six hours」 だそうで、これはかつての 米国テレビドラマ ERの中で 指導医の誰かが言っていた
実際、日本医薬品集にも、 「持続時間 6時間 (内服) 」 と記載されている (注射薬は3時間)
CS分類が 世に出るずっと前のこと、やはり高血圧性心不全 (基礎疾患はクッシング症候群) の患者に 利尿薬が奏功せず、末梢血管拡張薬による 降圧により心不全が改善した例があった
やはり 水分貯留も あったわけだ
患者の 呼吸数は減り、血中酸素濃度も上がり、患者と 会話も可能となり、患者は 明らかに楽になったように見えた
しかし、熱発は 続いていた
しかし、血液検査では CRPが 13.4mg/dlと、やや低下しているものの、抗生剤が 効いたという感じの下がり方ではない
CRPと同時に調べた プロカルシトニン – PCT (菌血症の時に上昇する物質) は陰性であり、ということは 細菌感染症は 否定してもよいのかも ・ ・ ・
同じ頃、血液培養結果報告が返って来たが、有意な細菌は 培養されていなかった
心不全の治療が 奏功したのであろうか、陰影が かなり 薄くなっているが、明確な 肺炎らしき陰影は見当たらない
尿路感染を 完全に否定することはできないので、入院時の検尿では 感染尿の所見はなかったものの 改めて尿検査をしようとした時のこと
膝に 手を当ててみたが熱感はない
もしかして、膝関節の 偽痛風?
メニスカスには 石灰化があり、関節包内の ピロリン酸塩が 鏡検で確認された
これらはすべて 偽痛風に特徴的な所見である
偽痛風とは 高齢女性に多いとされる疾患である
男性の かかりやすい病気として 良く知られた 「痛風」 とは全く異なる
患者は 消炎鎮痛薬の投与だけで 下熱し、CRPは 陰性化した
入院患者では とても多い病態であるが、今回は 心不全がメインであったため 目くらましに逢ってしまった
また 関節の発赤腫脹がなくても、偽痛風発作は ありうるということも知った
ループ利尿薬が使われることが 挙げれられている
ループ利尿薬は カリウムを下げると同時に 細胞内マグネシウムも下げる
細胞内マグネシウム欠乏が 偽痛風発作の一因とされているから、今回は 入院時に すでに偽痛風発作があり、その痛みが原因で 交感神経系が賦活され 血圧が異常に上昇し、心不全を 惹起したというのが わかりやすい シナリオである
また、心不全緩和に使用した ラシックスが 細胞内マグネシウ濃度を さらに下げて 偽痛風発作を持続させたとも考えることができる
「血清マグネシウム値は 細胞内マグネシウム値を 必ずしも反映しているとは言えない」 との報告もあり、血清マグネシウム値を 測る必要性はあまりないのかも知れない
因みに 今回の症例の 血清マグネシウム値は 正常範囲を僅かに下回っていた (1.8mg/dl)
下剤として 「マグラックス」 などの マグネシウム製剤を使用している人で 偽痛風発作を起こした人を、あまり見たことがないので、マグネシウムは 大切な キーワードといってよいのかも知れない