2017/02/06
高血圧や 高コレステロール血症で、一種類の薬だけを処方している壮年の患者は、特別な訴えがなければ、問診、聴診後、前回と同じ処方を 同じ日数処方して、次回来院日の予約を画面上で取るだけの作業であり、実に すんなりと診療を終えることができる
彼らは 職域での健診があり、外来診療で 検査をオーダーする必要もあまりない
高齢者では 処方薬の種類も多岐にわたるから、薬の副作用のチェックのための 血液検査や 心電図は 定期的に実施することが必要だ
前回のデータを画面で見ては、今回必要な項目を選ぶ作業が加わる
また、高齢者は 整形外科など、他科との併診の人が多く、 「予約日、予約時刻を他科と合わせてもらいたい」 という要望に答えて、他科の予約日に合わせるべく 処方日数の調整、予約時刻調整作業が加わり、これにも時間を割かれるし、他科での処方内容と重ならないように注意する必要がある
壮年者が
「特に変わりはありません」
と答えるのに対して、
高齢者では、必ずと言ってよいほど 何か新しい訴えがある
「便が 1週間出ていない」
「何を食べても 苦く感じる」
「夜間、小用に 10回ほどたつので 眠れない」
「認知症の検査をしてもらいたい」
少し前に テレビの健康番組をみて不安になり 「○ ○ を調べて欲しい」
健診や ドックの結果を持参して 異常値への対処を求める
また、一見 無関係と思われる 多種類の症状を えんえんと訴える
これを 詳しく聞き取り、 カルテに記録し、 原因を考え、 検査を考え、 場合によっては 他科に院内紹介状を書く
まず 耳の遠い人が多いから、そんな場合は 筆談をするのだが、そういった患者は 目も悪いことが多くて、僕の書いた文字を読み取れない
かといって 患者の耳元で大声で話すと、まるで喧嘩でもしているようで、周囲に丸聞こえになる
そこで活躍するのが 食品用ポリラップの芯となっている ボール紙製の筒
これを耳にあてて話せば、かなりの難聴の人とでも 会話が成り立つ
「ん、だいぶまえからだな」
と 返されることが ほとんどである
「 2、 3日前から? それとも 1週間前から? それとも秋ごろから?」
と、具体的に絞って聞かねば 情報は得られない
「只今 ○ ○医師は 急患対応のため ○時間ほど外来診療ができません」
という 表示板が用意されている
初診は、ほぼ総合診療といってよく、一見、内科領域以外の訴えに聞こえるものも多い
たとえ内科領域であっても、 消化器内科、 循環器内科、 呼吸器内科、 神経内科、 血液内科、 内分泌 ・ 代謝内科、 膠原病内科、 感染症内科、 腎臓内科と、すべての領域に浅く広く精通していなければ 診療方針が立てられない
中には、モンドール病、ティーツェ病、特発性肛門痛など、その疾患の存在を知っているだけで 即座に診断がつく場合もある
たとえば、 「頻尿」 、 「おしっこが近くて困る」
泌尿器科領域疾患もあれば、 糖尿病や尿崩症、 心不全もある
たとえば 肩の痛み、心筋梗塞のこともあった
ひとつの疾患が、人によっては 多彩な症状を示すということも まさによくあること
初診は 実に奥が深く、かつ難しい
他愛のない世間話や 趣味の話で 患者と親しくなれば より信頼される
信頼されれば、詳しい診療情報が得られ 正診に結びつく
という訴えは 要注意である
「Aは 50錠残っていて、 Bは 15錠、 Cは 12錠、 Dは 18錠余っているが、 Eは 1日分足らなかったので 今日は服用していない」 と
Aは 朝昼夕に服用する薬、 Bと Cは朝夕の 2回服用する薬、 Dは寝前服用薬、 Eは朝 1回服用する薬といった具合に 飲み方は 薬によって異なるので調整するのには 随分な労力と時間を要する
そういう人に限って、次回も同じように 不均等な余らせ方をする
「きちんと服用している」 と 主張されるのが常だが、それなら なぜ毎回、それも 不均等に余るのだろうか?
深く問い詰める必要もなく、どこかで 飲み忘れていることを 忘れているに違いない
そんなこんなで 気がつけば、乱戦をきわめた僕の外来は おわっている
外来診療あるあるの 楽屋話になってしまった
しかし