ホーム > 川口正展のなるほどザ・メディスン > chap.033 アドレナリン物語
2017/02/08
などと、市井でも使われる あの有名な物質
心拍数、血圧、血糖値を上げ、臨戦態勢を作るホルモンです
1900年 7月に、 24歳の日本人研究者、上中啓三が 牛の副腎から発見し、世界で はじめて結晶化に成功しました
もちろん、所謂 「ホルモン」 の 第 1号です
色あせることなく、救命医療の第一線で使用されている 貴重な薬剤であることも驚きです
高峰の意向のもと 研究を開始し、たった半年で 結晶化に成功するという偉業を成し遂げました
現在では アドレナリンの発見者が 高峰譲吉ということになっていますが、真の発見者が 上中であることは あまり知られていません
有効物質を純化する研究競争が 世界中で繰り広げられていました
ドイツの フェルトは 「スプラレニン」 を、米国の薬理学者 エイベルは 「エピネフリン」 を抽出したのですが、いずれも低純度で 生理活性も不安定な代物でした
彼の 「エピネフリン」 は アドレナリンとは分子式の異なる物質であったとされています
ところが エイベルは、高峰譲吉の死後、世界的に権威のある雑誌 サイエンス (66巻 1927年) に 「高峰が エイベルの研究所を訪問した際に抽出方法を盗んだ」 とする 虚偽の論文を掲載しました
エイベル説を信奉し、アドレナリンのことを エピネフリンと呼ぶようになりました
そして、それは 今でも変わっていません
米国の属国に近い日本では、米国にならって、アドレナリンのことを 「エピネフリン」 と呼んできました
つい先ごろまで、古参の医師は 「エピ1筒!」 などと 叫んでいたものです
先出のフェルトが 高峰の勝利を認めたことにより、英独仏をはじめ、各国で 「アドレナリン」 の 公式用語が採用されています
2006年 4月には 日本薬局方が 「エピネフリン」 の名称を 「アドレナリン」 に変更しました
高峰譲吉 ・ 上中啓三の 名誉挽回といったところでしょうか