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No.019 「医者学」

2011/01/28

「患者学」という言葉は時に使われるが、「医者学」という言葉は僕の造語である

医学以外で医師が心がけること、
たとえば患者に対する姿勢、
自らの日常生活の方法などのことを「医者学」と名づけてみた

僕は医者であるが、
さすがに、
この年齢になると、
患者になったことも、
患者の家族になった経験もある

つまり、
患者側の立場で医者を見る機会が何回かあったわけだ

僕が研修医だった頃

先輩医師から伝授された家族への病状説明のコツは
「予後を、実際予測されるよりも、多少悪く告げること」
であった

これは、
もしも楽観的な病状予測を告げて、
結果的でそうでなかった時、
家族から責められるのを防ぐ
「Defensive Medicine」
の一種であろう

(なお、訴訟社会である米国発祥のDefensive Medicineの本来の意味は、賠償責任を問われないように、
過剰な検査をしたり、
自分で治療せずに、専門医を紹介すること)

医療訴訟の増加している昨今、
本来よりも予後を悪く伝える方法も一理あるとは思う

しかし患者の家族の側から見れば、
予後を悪く告げられるよりも、
希望を持つことができるような予後を聞いたほうが嬉しいし、
そのドクターに頼ってみたくなるものである

僕の父の例を出す

父は25年前、
胃潰瘍による吐血で入院した

出血性ショック状態での手術をすることになり、
リスクは大きかったが、
執刀医から「大丈夫ですよ、治して見せますよ」と笑顔で言われた時、
僕は安らぎ感を覚え、
執刀医にすべてを託した

結果として、
父は術後、
退院することなく、
手術とは直接関係がない合併症(輸血によるGVHD)で2週間で死亡したのだが・・・・

病気は理屈どおりの経過を取らないことが多く、不確定要素を多分にかかえ、予想外の展開をすることが多いから、予後を予測することは難しいものだ

結果の予測が難しい原因の1つは

現代の医学が、
いまだ確実な診断、
確実な治療を遂行できるレベルまで進化した分野ばかりではないことにある

殊に内科では、
症状、検査結果を手がかりに、
手探り状態で治療しなければならないことが多いのが現状だ

僕は患者さんやその家族に病状、予後を説明するとき

最良のシナリオと最悪のシナリオを示すことにしている

これは「悪いニュースは初めに、良いニュースは最期に告げる」
という原則を守っていることと、
この手法のほうが「予後を本当の予測よりも少し悪く告げる」ことよりも公正と思うからだ

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