2011/04/02
十数年前のこと、50代後半の糖尿病男性が
「2週間ほど前から、夜になると毎日39℃台の熱発があり食欲もなく、3kgやせた」
との訴えで受診した
一般の血液検査でほとんど異常がなかったが、
検査入院を希望されたため、言われるまま入院として、更なる血液検査やCT検査などを行なったが、
発熱につながるような異常所見は見出せなかった
ある晩、検温に回っていた看護師が患者の体温計が湯のみ茶碗の中に入っているのを偶然発見した
何と、湯のみ茶碗の中には生ぬるい茶が入っていて、体温計は38.8℃を示していた
いつもこうして暖かいお湯の中に体温計をつけてから看護師に見せていたとのこと
監視検温をするようになると、体温計はとたんに平熱を示した
患者の言う「夜の熱発」は真実ではなかった
「発熱」
時に私が自分で患者のおでこに手を当ててみればわかったことだった
ミュンヒハウゼン症候群は
「詐病」
とは異なり、
周囲から関心や同情を買ったりすることを目的として、病気になりすまし、
色々な検査を積極的に受け、時には手術まで受けることを良しとする
病気になりすまして何らかの利益を得る詐欺行為であり、痛い検査などは避けたがる
対象が自分とは限らず、時に自分の近親者である場合がある
例えば、自分の子供が入院している時、その点滴に異物を混入させた事件がかつて報道されたことがあるが、これも他人を対象としたミュンヒハウゼン症候群に相当すると言われる
医療関係者が自分にインスリン注射をして低血糖症となり入院するケースは有名であるが、これもミュンヒハウゼン症候群のことが多い
「原因のわからない低血糖」とのことで種々の検査をされることを望んでいるのである
矛盾する所見があった場合、ミュンヒハウゼン症候群も念頭に入れる必要がある
(症例の詳細については「長野醫報 585;2011 3月号 p28-29」に掲載してあります)