ホーム > Dr.ブログ > No.045 ミッドナイト・ハイ

  • 救急の場合
  • 診療時間
  • 面会時間
  • 人間ドック
  • フロアマップ
  • 川口正展のなるほどザ・メディスン
  • Dr.ブログ

No.045 ミッドナイト・ハイ

2011/05/23

勤務医を何年も続けているから

夜間当直や、休日の日当直で、これまで診た患者は、延べ1万人前後くらいかと思う

頻度的に多い症状は、腹痛、発熱、めまい、嘔吐、下痢、失神など
さほど多くはないが、生命にかかわる可能性のある症状では、胸痛、動悸、吐血、頭痛、高血圧緊急症、意識の低下、心肺停止状態などがある

症状の種類は、上記の10余りで、決して多くはないのだが、その原因疾患の数となると、ゆうに100を下らない

診察、病歴から、まず、直感で、最も可能性のある疾患が脳裏に浮かぶ

次に、頭の中で、2位以下の鑑別診断を羅列する
そして、それらを鑑別できる検査をオーダーする

これらは、恐らく、どの医師でも、初診患者を診るルーチーンの手順であろう
最初の直感が当たる場合が多いのだが、時には外れる場合もある

以下、僕の直感診断が見事に はずれた 事例のいくつかを紹介する

  1. 側腹部痛で受診、直感では尿管結石、実は腎梗塞
  2. 胃痛で受診、直感では急性胃腸炎、実は急性心筋梗塞(下壁)
  3. 高血圧と、気分不良で受診、直感では高血圧脳症、CTで小脳出血が判明
  4. 数日前からの軽い頭痛で受診、直感で偏頭痛、CTでくも膜下出血の小出血(mimor leak)
  5. 胸痛で受診、心電図変化と血液検査結果から心筋梗塞と確信、実は胸部大動脈解離が、冠動脈分岐部に及んだもの
  6. 心拍数30(徐脈)と低血圧で受診、直感では洞不全症候群、実は高カリウム血症による徐脈
  7. 意識混濁で搬送、直感では脳血管障害、CT室へ行く前に念のために血糖値をチェックした所、低血糖が判明し、ブドウ糖注射で意識はすぐに戻った

これらは、2の矢、3の矢が診断の確定に物を言ったわけだ

さて、夜間当直で寝込みを起こされると

寝起きによる不機嫌や、ぼんやり状態のまま、患者を診ることになる
そうすると、ぶっきらぼうな対応になったり、判断が狂う可能性もある
これは、患者にとっては迷惑なことであろう

このことに気づいてからは、僕は当直の夜は、原則として、寝ないことに決めている
尤も、忙しい夜は、寝たくても寝る時間がなく、結果的に朝まで起きていることも多々あった

誰でも経験することであるかも知れないが

夜、寝ないでいると、テンションが上がる

夜間診療では、このテンションの高さが、僕にとって、誠に都合が良い
日中よりも判断が速く、正確である場合だってある

これは、深夜に起きていると、アドレナリンが分泌され、心理的抑制が取れて、行動に迷いがなくなるのだろう

夜間、救急で受診する患者の中には、とても不機嫌な人がいる

苦しそうに顔をしかめ、無愛想で、問診にも、ろくに答えてくれない
かつては、こんな患者を見ると、診察者である自分は、いらっとする時期があった
しかし、これらの患者は、入院後、病状が回復すると、人が変わったように丁寧な対応をしてくれたりする

即ち、人は、自分が絶不調の時、自分をつくろったり、医師を含めて、相手のことを考える余裕など、ないのだ

機嫌の悪い患者は、それだけ苦しいということなのだ

無理をして笑顔を作られるより、わかりやすい

「朝から症状があったのに、なぜ昼間の診療を受けずに、今来たの?」

「1週間も前から症状があったのに、よりにもよって、何で、夜中の3時に来るの?」

これらは、心で思うのは自由だが、診察者にとって禁句発言だ

誰もすき好んで深夜に病院に来たいわけではない

皆それぞれに、それだけの、事情があるのだ

最後に少し笑える話

救急搬送され、意識がないように見受けられた患者に

「わかりますか?」 と声をかけたら、その答えは

「わかりません!」

ああ、意識はあった

 |