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No.046 ITの進歩と医学の進歩

2011/05/27

この30年で飛躍的な進歩を遂げたのはIT関連の技術であろう

30年前には「ポケットベル」はあったが、今のような携帯電話は存在しなかった
ポケベルは一方的な通信手段ではあったが、固定電話しかない時代には、画期的な発明であったと言える

ポケベル時代に僕がいつも感じていたのは、
腕時計タイプの両方向通話ができる通信機器があれば、さぞ便利だろうなということ
それは手のひらサイズの携帯電話という機器となって、最近10年ほどの間に飛躍的に進化した
さらに今は、パソコンと携帯は合体してスマホの時代だ

20年前、パソコンは大型のフロッピーディスクを使っていた

処理速度は今の 1/100万 程度、
いやもっと遅かったし、
もちろん、インターネットなど民間レベルで使える環境は皆無であった

フロッピーディスクは小型化されていったが、
やがてMOが生まれ、
さらにSDカード、ミニSD、マイクロSD、フラッシュメモリーが出現すると、
これらに取って代わられた
記憶媒体はどんどん小型化、高容量化していく
テープレコーダーはICレコーダーに、ビデオデッキはHDDデッキに置き換わった

ところで、医学、医療技術、は

この30年でどのくらいの進歩をとげたのだろうか?

実は、この30年間の医学の進歩は驚くほど遅い
極論すれば、江戸時代の蘭方医術と、さほど変っていない(極論過ぎたか)

糖尿病や高血圧の治療と言えば、
相変わらず食事療法や薬物療法が中心だし、
進行癌が治療で消えるなどということもないし、
慢性肺気腫を治す治療法だって存在しない
僕が医学生時代に学んだ通りの治療法が、そのまま通用する疾患だって、
まだいくつもある

「21世紀前半には癌が完治するようになる」
と聞かされていたことは、
どうやら実現しそうにないし、
糖尿病が完治する病気になったわけでもなく、むしろ、患者数は増加の一途だ
C型肝炎のワクチンやHIVのワクチンの実用化は、いつになっても実現しない

この調子だと

これから30年後も、画期的な医療の進歩は、きっとないだろう

老化遺伝子や、老化防止遺伝子が発見されたとは言え、その知識を応用して、寿命を延ばす技術の開発など、現実からは程遠いSFの世界の話に思える

30年間で、世界の医学雑誌に掲載された論文数は

基礎医学、臨床医学を合わせて100万件を下らないと思う

それなのに、この差は、一体何だろう

もちろん、遅いとは言え、分野によっては、着実に、医学は進歩はしている

胃潰瘍や胃癌がピロリ菌によって起きることがわかったこと、子宮頚癌がワクチンで予防できるようになったこと、気管支喘息がステロイドの吸入薬でコントロールできるようになったこと、白血病が骨髄移植で治るようになったなどの進歩である

IT技術発展と、医学の発展を比較すること自体

あまり意味はないかも知れない

しかし、ここであえて考えてみた

IT技術は、数理的、論理的に

「発明」 を繰り返して進歩するから、それば冪(べき)級数的に進化する

これに対して医学技術はというと、
多くの病態を観察、調査することにより、
何かを「発見」 するによって進歩する

たとえば、古くは、ペニシリンが青カビから、「偶然」発見された
コレステロールを下げる薬として標準となったスタチン系も、
土壌の菌から「偶然」発見された

人体はコンピュータに比べれば、
はるかに複雑なメカニズムであり、
未知の部分が多すぎて、数理的、論理的に治療法を導き出すことなどできない

そうこうしているうちに

人類が克服したかに見えた感染症が再び脅威となってきた
エイズ、高病原性鳥インフルエンザ、多剤耐性菌などが、再び人類を悩ませる

栄養の十分でなかった時代にはなかった「メタボリック症候群」などという、新しい疾患も出現した

病気を治すことも医者の大事な仕事だが

治療法、診断法を研究する、基礎医学、臨床医学の研究も きわめて大切な医者の仕事だ
しかるに、医者は研究職になることをあまり好まない昨今の傾向と聞く

研究職は地味だし、待遇面などでも恵まれていないことが一因であろう
改善の余地はたくさんある

医学論文は量より質が重要である

論文のための論文、趣味的な論文はもういらない

実際の医療に役立つ、
質の高い論文が多くの研究者により発表されることを
切に望むDKである

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