2011/06/10
「聴診器を当てている間に、時間をかせいで診断を考えているんだろ?」
僕は答えた
「図星だな」
無論、これはジョークの答えだ
診療の基本であるかに思われている節がある
無論、初診の患者さんに対する胸部の聴診は、心音、呼吸音を聴き、心臓、肺の情報を得るために極めて重要である
それに、診察するのに聴診器を使わないのでは格好がつかない
定期通院している外来患者さんの場合は、毎回服を脱いでもらって聴診器を胸に当てる行為にどれだけの意味があるのだろう
多分に儀式的、儀礼的意味しかないのではないか
そう、聴診しないと格好がつかないのだ
知りたい心臓関係の情報の一つは、脈拍の規則正しさである
これは、年齢が進むにしたがって、「非弁膜症性心房細動」という慢性不整脈を持つ人が多くなるからである
心房細動は脳塞栓、脳梗塞の原因となる
心房細動の患者を見つければ、抗凝固薬を処方することによって、脳塞栓の発症を抑えることができる
したがって、心房細動が発症していることに気づくことが、外来診療では、とても大切である
しかし、この不整脈は聴診器を使うまでもなく、脈拍の触診でわかる
新たに生じた心雑音を発見する
(年齢とともに弁膜の逆流や大動脈弁の石灰化による狭窄の頻度が上がる)
背部での異常呼吸音を発見する
(薬の副作用、加齢などで起きる肺の線維化により、ぴちぴち音が背部の聴診で聞こえる)
といったところであろうか
それ以上の聴診の意味は一般医にとって疑問である
「診てもらった」と実感する患者さんは多い
この傾向は、特に高齢の患者さんに見られる
しかるに、聴診器の膜面は、色々な患者さんの皮膚に接するものだから、雑菌が付着する
聴診器の膜面を通してブドウ状球菌が他患にうつる、という報告だってある
(このため、僕は一人の聴診を終えると、膜面をアルコール綿で拭くように心がけている)
冷たい機器である聴診器を胸に当てることを止めて、
そのかわり、患者さんの手をとり、橈骨動脈を触れるようにしたことで、
意外な効果、患者さんとのスキンシップが生まれた