2011/10/12
従来のカルテのことは、わざわざ 「紙カルテ」 と呼ぶ
実際、現在、ほとんどの大規模病院では電カルが導入されている
しかしながら、幸か不幸か、飯綱病院では、従来どおりの紙カルテである
僕は、以前勤務していた病院が、紙カルテから電子カルテに移行する過程の実際を知っているので、ここで、あえて、電カルと比較しながら、紙カルテの利点を考えてみた
太い釣り針を、誤って自分の指に1cmほど刺してしまった人が治療に訪れた
僕は、釣り針を除去したあと、その針を、カルテに貼り付けた
れっきとした証拠物件である
電カルでは、さすがにできない芸当だ
精々、釣り針を写真に撮って、カルテにペーストするくらいか
いずれにしても、面倒な作業である
紙カルテは、カルテを書いた人の筆跡が残るので、誰が書いたものか、一目瞭然である
これに対して、電カルは、他医のIDとパスワードさえ知れば (これらは、いとも簡単に知ることが出来る) 、また、たまたま他医がログインした画面がそのまま放置されていれば (よくあること) 、誰でも、医師でなくても、その医師に成りすましてカルテ記載が出来てしまうわけである
考えたくないことだが、もしも悪意を持った誰かが、他医になりすまし、嘘のカルテを書いたとしても、後で誰にもわからない
「僕は書いていない」と主張しても、根拠を示すことが出来ない限り、通るはずがない
セキュリティー管理の甘さを指摘されるのがおちだ
これだけで充分、 「○○サスペンス劇場」 の題材になることだろう
電カルは、性善説のもと構築されたシステムなのだ
だから、セキュリティーの面では、紙カルテが一枚も二枚も上である
電カルは、患者の訴えや所見の記載のみならず、
などなど、
すべて医師が自らキーボード入力する
だから医師の行う作業量は多い
必然的に、医師は、患者よりも、キーボードやディスプレイ画面の方に向くことになる
だって、一度入力に失敗したら、やり直しには面倒な操作が必要なのだから、入力には慎重にならざるを得ない
キーボードや画面しか見ない医師達に、最初は違和感を覚えるであろう患者達も、次第にそれが普通のことと思うようになり、あきらめる
しかし、これは決して好ましい診療風景とは言えない
キーボード入力は慣れれば、ブラインドタッチで素早くできる
しかし、画面を見ることは避けられない
だから、僕の場合は、患者と接する時は従来どおりで、患者の訴えや、所見は覚えておいて、電カル記載やオーダー入力は、患者との対面を終えた時点で行っていた
たぶん、多くの医師達も、今はこのようにしているのではないだろうか
医師は、必要な検査や、次回予約日などを、 「紙カルテ」 に書くだけで、あとは診療補助員、あるいは看護師が、伝票処理、次回診療予約など、すべて行ってくれる
複数科に受診している人の場合、両科に同日受診できるように、予約日を調整してもくれる
したがって、一人の患者さんを診る場合に、医師が患者と向き合い、訴えを傾聴し、診察する時間は長くなり、しかしながら、患者一人当たりの診察時間は、入力の作業がない分、はるかに短縮される
過去の記載や、他科の診療状況や投薬内容を見るのには結構手間がかかるものだが、紙カルテなら、ぺらぺらとめくるだけであり、他科の投薬内容だって、すぐにわかる
また、電カルの場合、患者の持参した自宅血圧や、血糖自己測定の記録は、スキャナーで取り込むという手間が必要となり、かつ、それを見るのには別のページを開かなくてはならない
たとえば、介護保険の医師意見書、保険会社の入院診断書、一般の診断書、訪問看護指示書、退院サマリー、診療情報提供書、患者紹介に対する返答書など、多種多様の書類の処理を迫られる
幸い、飯綱病院には電カルはなくても、書類作成ソフトが導入されていて、これには全ての保険会社の書式や、他の書類の書式が入っているので、診断書などの作成はいとも簡単で、仕上がりも活字なので美しい
完全にフィルムレスなので、X線写真を収納するスペースが要らないばかりでなく、各診察場に備えられた、大きなビユーワーを用いて、過去の映像と比較読影なども自在にできる
飯綱病院では、電カルを採用せず、かつデジタル化のいいとこ取りをしているわけである
職員のトレーニングも必要である
また、一旦導入すれば、賞味期限(使用期限)があり、それを過ぎれば、またシステムを更新しなければならない
すなわち、費用対効果、今風に言えば B/C が良いとは、とても言えない
電カルは未だ発展途上と言える
操作性面、費用面で更に更に更に改善してもらわなくてはならない
合理的思考の米国での電子カルテ普及率が、極めて低いのも頷けるというものだ