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No.099 坂の上の雲

2011/12/21

ご存知、司馬遼太郎の長編小説である

NHKがテレビドラマ化して、毎年、年末に放映している
僕は昨年末も視聴したが、 「続きは1年後」 というのに驚いた
そんな壮大な連続ドラマは類を見ない

さて、今シーズンは日露戦争を描き、圧巻である

明治維新からたった37年しか経っていない、開発途上であった日本が、当時、世界最強と言われ、最新兵器を備えたロシア軍を相手に、いかに戦い、いかに勝利したかを、秋山兄弟を主軸として、丁寧に描いて行く手法は、さすがNHKである

戦闘場面のリアリティー、迫力は劇場映画さながらで、一般的TVドラマのスケールを遥かに超えている
これでは、制作に 1年かかるはずだと納得

しかし、ここで忘れてならないのは

日本帝国のために膨大な数の日本人の命が失われたことである(もちろんロシアも)

記録によると日本軍の死者は約 8万8000人であるが、死亡した将兵の多くは 陸軍 で、そのうちわけは、
戦闘関連で死亡した数、 約 5万6000人、病死 約 2万7000人である

つまり、病死が死亡者全体の1/3を占めているわけだ
病因はさまざまであろうが、最も多かったのが脚気と考えられている
(日清戦争では戦傷死 1,400人に対して病死 12,000人)

日露戦争の勃発した 1904年当時

脚気の病因が特定できておらず、感染説と栄養説に分かれていた

感染説を主張したのは、
後に帝国陸軍軍医総監となる森林太郎(=森鴎外)で、彼は陸軍 の主食を精米した白米で良しとした
栄養説を主張したのは、
後に海軍軍医総監となる高木兼寛で、彼は海軍 の主食をパン食あるいは麦飯とした

その結果、海軍 からは脚気死は出なかったという

野山を駆け巡る陸軍の将兵は運動量が多いため

恐らく多くの白米を食べたであろう
炭水化物の体内での分解利用にはビタミンB1が必要であるが、胚芽を含まない精白米はビタミンB1を含まず、そのため脚気が多発したものと思われる

脚気というと

「膝蓋腱反射が出ない病気」 くらいの認識の人が多いと思う
しかし、重症脚気は右心不全、乳酸アシドーシス、ウェルニッケ脳症など起こし、死に至る

脚気なんて

昔の病気と思っている人も多いだろうが、実は今でも脚気は存在する

偏った食事習慣、たとえば炭水化物だけを多く摂取していれば、脚気になる
また、アルコール依存症の人は脚気になりやすい
これは、アルコールの代謝にはビタミンB1が必要な上、アルコール依存症の人は酒だけしか摂取しないことも多く、ビタミンB1不足に陥りやすいのが原因である

ビタミンB1が

高峰譲吉によって米糠から抽出され、オリザニン と命名されたのは、日露戦争終結の5年後、すなわち1910年のことであった

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