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No.122 肥満

2012/02/22

肥満が健康に良くないと言われて久しい

「私は水を飲んでも太るんです」 と、半ばふざけて (ふてくされて) 言う患者さんは多い
確かに、家族と同じ食事をしているのに、自分だけ太る人はいる
これは、必ずしもその人の食生活が悪いわけではない
さほどの量を食べていなくても太って行く人は、実際いるのである

肥満の人は

「ダイエットしなさい」 と医者から言われるが、これは酷な話である
誰だって好きなものは好きなだけ食べたいのだ
食べたい気持ちを抑えて、たとえ体重が落ちたとしても、一生、そんな食生活で生きていて楽しいだろうか?
人間は食べる時に快楽を感じる
これは、動物の本能だ
しかも、どんな食べ物を、どれだけ減らせば良いのかさえわからない

また、肥満していても

血液検査上何も異常のない人も多く、彼らにとっては、痩せろといわれても、いらぬお節介だろう

もともと、ヒトには

一定の体重を保つためのメカニズムが装備されている
カロリーを必要以上に摂り過ぎれば、体はそれを察知して、 「褐色脂肪細胞」 が熱を作り、余分に摂取したエネルギーを、熱として体外へ逃す
だから、この場合、食後には体温が少し上昇する

「褐色脂肪細胞」 は

脇の下、首の後ろ、背中などに少量存在していて、外見上、褐色をしている
そして、β3アドレナリン受容体を表面に持っている
だからβ3受容体が刺激されれば、褐色脂肪が働いて放熱し、過食してもあまり太らないというわけだ

ところが、日本人の約 3分の 1の人には

β3受容体遺伝子の異常があり、食後、熱をうまく放散できないといわれている
すると、食べ過ぎた余分のエネルギーは、食後、膵臓から分泌されるインスリンの働きで、脂肪になり、脂肪細胞に蓄えられる
だから太る

特に炭水化物 (砂糖、米、小麦粉製品など) の摂取は

食後血糖値の急激な上昇を来たす
そして、この血糖値上昇を抑えようとして、膵臓はインスリンを多く分泌するので、結果太りやすい

だから、毎日の炭水化物摂取量を少し減らすだけで

たとえβ3受容体遺伝子の異常がある人であっても、最低でも 2から 3kgは痩せられる
具体的には、昼か夜の食事で主食だけ食べないようにすれば良い

抗肥満薬の研究開発はずーっと昔から続けられていた

そのうち、世に出た薬は、オルリスタットとマジンドール
前者は脂肪吸収を抑制するので、脂肪摂取量の多い人に効果的である
日本で発売されてはいないが、個人輸入できる
後者は食欲を抑制する薬で、サノレックスという製品名で発売されている処方薬である

さて、体重が、ある 「限界値」 を超えると

糖尿病や高血圧が発症するらしい
だから、標準体重にまで減量しなくても、その 「限界値」 以下にするだけで、糖尿病や高血圧が著明に改善する場合が多い

例えば

体重を 3kg減らしただけで、経口血糖降下薬を半減できた人がいる
体重を 5kg減らしただけで高血圧が治った人もいる

ちなみに

「標準体重」 を求める計算式がいくつか考案されてはいるが、あまり当てにならない

これらの式は

身長から 「標準体重」 を計算するだけのものであり、人間の 「理想体重」 は、そんなに単純に決められるものではない

その人の理想体重 (健康体重) に最も近いのは

20歳前後の頃の体重だ
肥満者の大半は、当時の体重を覚えているが、肥満している現在は、それと随分かけ離れている

10年ほど前

「β3受容体を刺激して褐色脂肪細胞を活動させれば、理論的に痩せられるはずだ」 という発想から、新しいタイプの抗肥満薬すなわち、β3受容体を刺激する薬剤の開発競争があった
実現すれば、何千億、いや兆の売り上げの期待できる薬となったはずだ

しかし、結局、有効な薬剤は一つも開発できずに

プロジェクトは終ってしまったらしい
ヒトの体はそんなに単純なものではないのだろう

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