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No.136 悩む 感染症診療

2012/03/28

感染症の治療には定石と順番がある

  1. 痰、尿、血液など、感染している部位の検体を採取する
  2. その中に含まれる菌を培養するためである
    しかし、培養結果が出るのは 2から 3日後になるので、抗生剤の投与をそれまで待つわけには行かない

    そこで

  3. 検体を 1000倍率の顕微鏡で見て、細菌の形や、染色の色調から、細菌の種類を推定する
  4. 次に

  5. 推定菌に対して、経験上、最も有効とされている抗生物質を投与する
  6. 後日、培養の結果が出て、原因菌が特定されれば、その菌に効く抗生剤に変える
  7. 感染症が治れば抗生剤を中止する

という手順である

教科書的には上記だが、実際はそう簡単ではない

先ず、 1. の検体採取

肺炎の初期には咳も痰も出ないので、検体の取りようがない
たとえ、痰が出ている人でも、自分で出せないと、口の中から吸引で採取しなければならず、口腔内の雑菌ばかりを検査することになりかねない
また胆嚢炎は胆汁を簡単に採取できない
悩む

次に 2. の顕微鏡検査

いろいろな菌が見える中で、数の多いものが原因菌のはずだが、混合感染もあるので、原因菌が一つとは限らない
口の中に常在している菌も染まるので、判定を誤る

また形状、大きさ、染色具合からの菌の特定は、けっこうむずかしい
ちょうど、顔や体格から、その人の国籍を当てるようなものだ
悩む

「鏡検像から推定した原因菌が、培養された菌と異なっていた」 などということも、めずらしくない

次に 3. 抗生剤の選択

最初に使用する抗生剤は、敵が見えないため、広いスペクトルを有する物が必要となる
敵がどこにいるかわからない時に、所構わず機関銃を撃ちまくるようなものだ
敵でない人も撃ち殺してしまうかも知れない
悩む

さて、 4.

初めに選択した抗生剤で熱が下がって、まさにほっとした矢先、培養結果が戻ってきたとする
そして、レポートには 「今のよりも狭域の、別の抗生剤の方が、培養された菌に対して感受性が高い」 との結果が出ていた時、抗生剤を変更するべきか?

シャーレの上の感受性と、人体に使った時の感受性とは必ずしも一致しないものだ
医療に関する格言には 「今の治療が有効であれば、それを変えるな」 というのがあるし
悩む

最後に 5.

抗生剤が効いている時、いつ中止するのか?
昔は 「熱が下がって 2日」 とか 「CRPが陰性になってから」 とか、いろいろ言われた

今は、特に基準があるわけではなく、各医師が、感染の種類を考えた上で、各自判断して中止時期を決めることが多い

僕の場合、たとえば肺炎では、下熱が得られ、白血球が正常化し、好酸球が上昇した時点が中止時期だ
その頃になると、患者は 「おなかがすいた」 と訴える
空腹感が出れば、回復した証拠である

CRPは少しでも下がっていれば良いし、レントゲン写真に影が残っていても構わない
肺炎の場合、最短 4日間で抗生剤を中止できた例もあるが、だいたいは 1週間以内といった所だ
この方法で、感染が再燃したケースは 1例もない

中止時期に関してだけは、僕はあまり悩まない

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