2012/04/10
きっと苦しかったであろう、自分の戦争体験を、さも自慢げに僕に話した
父にとっては、数々の戦闘で生き残ったことや、復員後に立ち上げた事業の成功が、栄光の日々だった
結婚前、わずかな時間を過ごした教員時代の思い出を、幼い息子 (僕) に何度も話して聞かせた
「お父さんには内緒よ」 と、いちいち釘をさしながら
母にとっては、この時が栄光の日々だった
患者さんは、みな年代が 80歳代以上で、中には 100歳を超える人もいる
そこには平和な時間が流れている
病棟の雰囲気もナースステーションの空気も明らかに異なる
もともと病状は安定しているので、 30秒程度の型どおりの診察を終えると、他にすることがない
そこで、僕は、患者さんと、世間話や昔話、天候の話をする
光沢も鮮やかなままの金色の指輪を、左の中指にはめていた
結婚指輪?
すると、高齢とはいえ、整った顔立ちの彼女は、 「初めは薬指にはめていたんだけど、指が細くなってしまってね、ゆるいの。 だから少し太い中指にしているのですよ。」
と、わかりやすい説明をしてくれた
今は静かに病院の窓から山を見つめている彼女
そして、胸をときめかせた恋愛時代があったのかもしれない
亡くなったご主人との、幸せな思い出もたくさんあったのかも知れない
子供の世話に明け暮れながら、充実した瞬間を過ごしていたのだろう
それが、彼女の輝ける日々、栄光の日々
しかし、自分の栄光の日々は決して忘れはしない