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No.141 栄光の日々

2012/04/10

Every dog has his day 誰にでも栄光の日々がある

僕の父は

きっと苦しかったであろう、自分の戦争体験を、さも自慢げに僕に話した
父にとっては、数々の戦闘で生き残ったことや、復員後に立ち上げた事業の成功が、栄光の日々だった

母は

結婚前、わずかな時間を過ごした教員時代の思い出を、幼い息子 (僕) に何度も話して聞かせた
「お父さんには内緒よ」 と、いちいち釘をさしながら
母にとっては、この時が栄光の日々だった

さて、飯綱病院の 4階は療養病棟である

患者さんは、みな年代が 80歳代以上で、中には 100歳を超える人もいる

  • 一日中、デイルームから景色を眺めている人
  • ベッドで横になって、ラジオを聴いている人
  • テレビで水戸黄門を見ている人

そこには平和な時間が流れている

3階にある急性期病棟とは

病棟の雰囲気もナースステーションの空気も明らかに異なる

療養病棟の患者さんを回診する時

もともと病状は安定しているので、 30秒程度の型どおりの診察を終えると、他にすることがない
そこで、僕は、患者さんと、世間話や昔話、天候の話をする

ある患者さんが

光沢も鮮やかなままの金色の指輪を、左の中指にはめていた
結婚指輪?

「どうして 中指に はめているんですか?」 と僕は尋ねた

すると、高齢とはいえ、整った顔立ちの彼女は、 「初めは薬指にはめていたんだけど、指が細くなってしまってね、ゆるいの。 だから少し太い中指にしているのですよ。」
と、わかりやすい説明をしてくれた

ご主人が亡くなった後も結婚指輪をして

今は静かに病院の窓から山を見つめている彼女

しかし、彼女にだって、若い時があった

そして、胸をときめかせた恋愛時代があったのかもしれない
亡くなったご主人との、幸せな思い出もたくさんあったのかも知れない
子供の世話に明け暮れながら、充実した瞬間を過ごしていたのだろう
それが、彼女の輝ける日々、栄光の日々

寂しいが、人は生きていれば、必ず歳をとる

しかし、自分の栄光の日々は決して忘れはしない

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