ホーム > Dr.ブログ > No.171 医師と名刺

  • 救急の場合
  • 診療時間
  • 面会時間
  • 人間ドック
  • フロアマップ
  • 川口正展のなるほどザ・メディスン
  • Dr.ブログ

No.171 医師と名刺

2012/08/10

勤務医は、名刺を使う場面がほとんどない

医学部教員や、病院、診療所の院長、保健所長などは例外であるが

当たり前と言えば当たり前だが、なぜ、勤務医は名刺を必要としないのか

そもそも、名刺とは

一般に、お互い、初対面の場合に交換するものである
勤務医とて、初対面の人と出合う場面が少ないわけでは、決してない

初診の患者は初対面だが、いちいち名刺を渡したりしない

初対面の医者と、学会で討論する場合でも、名刺を渡すことなどない
医 ・ 薬 ・ 機器関係の業者と初対面の場合、相手は名刺をくれるが、こちらは渡さない
だから勤務医は、名刺を持たない人が多い

研究会などで、知り合った医師と

「すみません、あいにく名刺を持ち合わせていなくて」 と、お互い言い合うこともある

さて、随分前だが、僕が、愛知県にある某病院の院長をしている時、病院が名刺を準備してくれた

与えられた名刺は、 1箱 100枚だが、これが 1、2ヶ月で空になる
一体、どこにそんなに使うのか

院長就任時は

医師会長、保健所長、近隣の連携病院院長、公職、 100軒近くある地元の開業医回りなどで、あっという間に名刺箱は空になった

一旦落ち着いたかと思うと

今度は、医師派遣要請のため、県内にある、4つの大学医学部の関係教授を訪問する
その都度、名刺を交換するから、名刺の消費量は減らない
教授が交代すれば、また訪問で名刺交換
まったく面倒くさい

医師派遣に関連する大学医局は多岐に亘るので

スケジュール調整が必要となる
アポイントメント取りは、病院の担当事務官がおこなうので、僕は、決められた過密スケジュール通りに動くだけだ

僕の所属していた某病院は

医師が充足していた数年前までは、救急医療を含めて、殆どの医療を完結でき、救急車搬送件数は年間 約2000台で、誠に充実した病院であった
にもかかわらず、大学医局は派遣医師をどんどん引き揚げはじめ、遂に、慢性的な医師不足に陥った
そのため、患者は多いのに、病院機能が充分に発揮できず、 1人でも、医師を確保することが急務であった

だから、なりふり構わず

まるで飛び込み営業のような医学部教授訪問をしては、自院の特徴やメリットを説明する

しかし、教授の答えは殆ど同じ

「うちも、医局員が不足していましてね ・ ・ ・ 」
医師を派遣できる状況にないことを、やんわりと表現する人もいた

僕よりも、はるかに年下で
 かつ、きっと臨床経験も浅いであろう若い 「教授」 が

完全な上から目線で、 「お前の病院になど、人が出せるわけがない」 みたいなことをいう場合もあった

「うちは 500床以上の病院にしか、医師を派遣しません」

と言われたこともあった

教授とアポを取り付けているにも拘わらず

約束の時間に訪問してみると、 「医局長」 なる若者が名刺を差し出し、 「今、教授は不在であるから、私が替わりに話を聞く」 という、失礼極まりない扱いを受けたことさえもあった

以前は

「菓子折りの下に○○の束を詰めてプレゼントすれば、すぐに医師を派遣してくれた」 などという噂もあったと聞くが、今時、公立病院が、そんな犯罪まがいの行為をする訳にはいかない
事実、どこかの病院が、大学の講座に○○を贈り、見返りとして、医師の派遣を受けたことが、贈収賄に当たるとして、摘発された事件が新聞報道されたこともある

また、 「研究費」 の名目で、毎年、講座に一定額を寄付することにより、医師を定期的に派遣して貰えた時代もあった (今も あるかも?)

214床、弱小病院の悲哀を味わいながら

寂しい気持ちで帰途に着く日が続いた

週に 2、3回はこのような外出を続けていたので、外来や入院患者さんには、きっと随分迷惑をかけたことであろう


先日、僕は部屋の整理をしていたら
 当時の交換で頂いた名刺の束を発見した

これらをあらためて眺めていると、名刺は、その人の自己顕示欲や人格を語っていることに、今更ながら気付いた

  • 縦書き、横書き
  • 所属、肩書、連絡先のみ書いたもの
  • 表の肩書が、やたら多いもの
  • 裏に、英語表示をしたもの
  • 裏に、 「○○専門医」 などの資格を、ありったけ列挙したもの

実際に必要なのは、所属と連絡先だけなのだけれど ・ ・ ・

 |