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No.198 ニアミス(後編)

2012/12/25

須田は、普段

すべてにおいて調子が良くて、要領も良いのだが、残念なことに手先があまり器用ではない

研作の不安は当たり

須田の処置は 20分では終らなかった

仕方なく、研作は

ステーションで、カルテ入力をしながら、所在なく待った

30分も経っただろうか

3011室で須田医師の処置についていた若いナースの一人がステーションに駆け込んできた
「先生、武井さん、血圧、上が 60くらい、触診です」
彼女が甲高い声で、研作に向かって叫ぶ

須田が縫合を終えてメラサの圧設定をしている時に

隣のベッドで横になっていた武井青年が突然、苦しそうな表情を浮かべ、何か言おうとしたので、異変を感じて血圧を測定したとのこと

研作は一瞬で、何が起こっているのかを理解した

「緊張性気胸だ!」

緊張性気胸とは

破れた肺の穴が一方向弁のように働いて胸腔内に空気がどんどん増え続け、遂には下大静脈を圧迫して、静脈還流を遮断、結果、心臓から送り出す血液量が減少して血圧が低下し、ショック状態に陥る病態だ
何も処置しなければ短時間に死亡する

3011号室に駆けつけた彼は

咄嗟に脱気セットの中の、曲がりペアンをつかみ、冷や汗でぐっしょりしている武井青年の右胸の肋間を手で確認すると、それを直角に突き立て、思いっきり、腰で押し、穴を広げた
ブスッという鈍い音に続いてシューと勢いよく空気が抜ける
すると、それまで触れなかった橈骨動脈の拍動は、すぐに、しっかりと触れるようになった

「危なかった」

武井青年の処置を終え

昨夜入院させた 9人の患者を回診し、処置、検査指示を出し、カルテを書いてふと時間を見ると、夜の 8時

dk198

「寒っ」

研作は、病院の職員通用門を出ると、マフラーを巻き直し、凍てつく空に輝く、満天の星を見上げながら、職員駐車場へと向かった

― 完 ―

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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