2013/01/11
「即断、即決」 という言葉は、彼のためにあるが如くである
だから、現場で彼を見ている看護師など、他の医療スタッフは、彼の医療内容に関して 「だけ」 は厚い信頼を置いている
48歳の会社員が救急外来を受診した
その夜の救急担当は、卒後 4年目の藤谷大輔であった
発症のしかた、典型的な症状から、急性心筋梗塞と確信した
心電図は、胸部誘導の T波が多少増高しているだけで、まだ ST変化はない
血液検査でも、心筋酵素の上昇はないが、トロポニンTは陽性で、白血球数の上昇がある
彼は 「発症まもない急性心筋梗塞」 と診断し、カテラボを立ち上げるように指示し、心カテチームの看護師に連絡した
その場に居合わせた誰もが藤谷の診断を疑わなかった
そして、いつもの流れのように事は運ぶ
はずだった
ぼんやりと、遠巻きにスタッフの動きを眺めていた
彼は、看護師が患者の血圧を何度も測り直しているのを見逃さなかった
ようやく血圧が測れたのか、「血圧 160/90 です」
彼女は藤谷に報告し、記録をしている
須田はそう呟くと、部屋の隅に電源を入れたままで置かれている心エコー装置を見つけ、 48歳会社員の胸にプローブを当てた
液晶画面を見つめたままの、須田の、低い、しかし良く通る声が、静かに救外に響く
患者はカテラボではなく、CT室へと運ばれて行った
「お前、患者、殺す気か」
と囁いた
- つづく - (かも知れない)
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません