2013/01/15
東新記念病院で初期研修を終え、引き続き、この病院で後期研修をおこなっている、 29歳の独身貴族である
専攻はまだ決めていないが、何となく外科系に憧れている
現役で産科医をしている彼の父は、大輔が家業を継ぐことを願っているのだが、当の彼は 「リスクが高い上に、少子高齢化の日本において、将来性のない産婦人科だけは嫌だ」 と思っている
だから、たまに実家に帰っても、父とは噛みあわない
色々な症例に当たるわけで、彼は、自分の医療に対して、理由のない自信のようなものを抱くようになっていた
「お前、患者、殺す気か」
は、正直こたえた
上行大動脈解離を考えなければならないことは頭ではわかていた
しかし、実際に、そういった症例を経験したことはなかったから、体が覚えていなかった
なぜ自分は患者の両橈骨動脈を触れなかったのだろう?
何でそんな簡単なことさえ思いつかなかったのだろう?
そして、なぜ須田先生が突然現れ、しかも真の病名を言い当てたのだろう?
須田が遠くで見ていたことを、大輔は知らない
その晩、彼は、愚かな自分を責めながら、一睡もすることなく、朝を迎えた
昨日の患者は、幸いなことに、上行大動脈解離の手術が成功し、存命していた
担当の心臓外科医からは、 「よく気付きましたね」 と褒められ
大輔は嬉しいような、恥ずかしいような、何だか複雑な気持ちになった
「さて、気分を一新して今日も働くぞ」
折れそうな気持ちを無理やり鼓舞して、彼は病棟に向かった
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません