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No.204 episode 1

2013/01/15

藤谷大輔は卒後 4年目

東新記念病院で初期研修を終え、引き続き、この病院で後期研修をおこなっている、 29歳の独身貴族である
専攻はまだ決めていないが、何となく外科系に憧れている

もっとも、実家は代々続く産婦人科医院で

現役で産科医をしている彼の父は、大輔が家業を継ぐことを願っているのだが、当の彼は 「リスクが高い上に、少子高齢化の日本において、将来性のない産婦人科だけは嫌だ」 と思っている
だから、たまに実家に帰っても、父とは噛みあわない

卒後、一般病院で 4年も研修を積むと

色々な症例に当たるわけで、彼は、自分の医療に対して、理由のない自信のようなものを抱くようになっていた

だから、昨夜、須田に言われた一言

「お前、患者、殺す気か」
は、正直こたえた

心筋梗塞の原因として

上行大動脈解離を考えなければならないことは頭ではわかていた
しかし、実際に、そういった症例を経験したことはなかったから、体が覚えていなかった

あの時

なぜ自分は患者の両橈骨動脈を触れなかったのだろう?

何でそんな簡単なことさえ思いつかなかったのだろう?

そして、なぜ須田先生が突然現れ、しかも真の病名を言い当てたのだろう?

看護師が右腕で血圧を測定できないことを

須田が遠くで見ていたことを、大輔は知らない
その晩、彼は、愚かな自分を責めながら、一睡もすることなく、朝を迎えた

翌朝、眠い目で出勤すると

昨日の患者は、幸いなことに、上行大動脈解離の手術が成功し、存命していた
担当の心臓外科医からは、 「よく気付きましたね」 と褒められ
大輔は嬉しいような、恥ずかしいような、何だか複雑な気持ちになった

今日は、東 5階病棟のナースとの飲み会がある

「さて、気分を一新して今日も働くぞ」
折れそうな気持ちを無理やり鼓舞して、彼は病棟に向かった

- つづく -

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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