2013/02/06
夜間救急外来待合室は、さまざまな訴えの患者と、その付き添い人であふれている
救急隊からの連絡が入った
85歳、女性、玄関で転倒して意識がないとのこと
「ああ、今夜も忙しくなるな」
ナースに人気のドクターだ
因みに、ユーモアのセンスは人柄のすべてを語るとも言われる
救急隊からの簡略な報告では、状況が今一つ明らかでない
骨折でもしているのか?
幸い、今日の外科系当直は整形外科である
単なる骨折であって欲しい
彼にとって最重要事項は、今日はいつ夕食にありつけるのか、ただそれだけである
というのも、昼間の外来が長引いたため、昼食をとることができなかった
彼は朝食を食べない習慣なので、これで夕食にありつくことができねば、絶食時間は 30時間を超える
血糖値や中性脂肪値は一体どうなっているのだろうか?
そんなことを考える間もなく、サイレンが聞こえ、救急口から慌しく患者が搬入されてきた
患者は、息子の嫁との 2人暮らし
外出しようと玄関に立った瞬間、崩れるように倒れこんだという
頭を打った様子はなく、呼名には全く反応しなかったとのこと
とすると頭?
「血圧 182/ 98、脈拍 68、サチュレーション 97です」
看護師が報告する
小栗は 7.5mmのチューブを気管内に挿管したあと、患者をCT室へと運んだ
おそらく、脳動脈瘤破裂による、くも膜下出血だろう
脳外科にコンサルトをし、脳外の病棟に入院となった
相変わらず、熱発、腹痛、めまい、頭痛、急性アルコール中毒など、多彩だが、各々の患者を処置し、一応診療を終えて時計を見ると 11時半
「もう こんな時間か」
さすがに深夜に入れば、ウォークインの患者は少なくなるが、救急搬送は逆に増える
「小林治夫さん、田中先生の患者さんですが、先ほどからおなかを痛がっていますけど ・ ・ ・ 」
小栗は必ず診察に来ることを知っているので、看護師はそれ以上言わない
「なんだ、そんなに痛くないのか」
小栗はそう思ったが、一応、小林さんの腹を触診する
「ここ痛いですか?」 と尋ねるのだが、小林さんはなぜか少し朦朧としていて、はっきりと答えない
「寝ぼけているのかな?」
外科腹ではないと判断したが、念のため腹部を聴診した
食後随分経っているとは言え、腸音がほとんど聞こえない
すこし嫌な予感はした
「CT画像が欲しい」
救急外来から救急車到着のコールがあったので、小栗は、とりあえず、小林さんの絶飲食と血管確保の指示を出して、 1階に降りた
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません