2013/02/12
昨日の当直中に呼ばれて診た、病棟の、小林治夫さんの腹痛の原因が気になっていた
単純CT画像を開く
明らかな小腸イレウスだ
だとすると原因は何だろう?
確かに上腸間膜静脈が 上腸間膜動脈よりも細い
正常ならば逆のはずだ
動脈が詰まっているから静脈還流が減って、画像上細く映る
上腸間膜動脈閉塞の所見である
担当医である田中は気付いているのだろうか?
「田中先生、小林さん、スモーラーSMVサインがありますよね」
田中 : 「えっ、エスエム部位サイン?」
小栗 : 「SMA詰まってるかも知れないよ」
「田中先生、腹部CTやるなら造影しなきゃ」
小腸全部と、大腸の口側約半分に血液供給をしている重要な血管だが、重要な割には細い
したがって、心房細動を基盤とする動脈塞栓や、動脈硬化による血栓によって容易に閉塞する
閉塞して 12時間以上経てば、腸管は壊死に陥り、手術をしなければ救命できない
しかし、持続する腹痛の割には腹部所見に乏しく、初期には腹部の触診等では緊急性を察知することが難しい疾患だ
確かに、腸管麻痺の原因の一つとして上腸間膜動脈の閉塞がある
しかし、SMAの閉塞は、心房細動など、動脈塞栓症の可能性のある基礎疾患を持つ場合のはずと思っていた
小林さんに不整脈はない
もしSMAが詰まったとして、一体何時間たっているのだろう?
12時間以上経過していれば、すでに広範囲な腸管壊死が進んでいるはずだ
田中は自分の対応の遅さを恥じた
小栗の言ったとおり、上腸間膜動脈は、起始部で完全に閉塞している
恐らく手術の絶対適応だ
小林治夫さんの腹痛が始まってから、すでに 12時間以上が経過していることは確実であった
- つづく -
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません