2013/02/19
杉田 : 「シンプルに考えることだよ」
「受診のきっかけは何だ」
玉森 : 「嘔吐です」
杉田 : 「嘔吐はどのくらい続いているの?」
玉森 : 「 20日程続いているそうです」
杉田 : 「少なくても急性の腹部疾患ではなさそうだね」
「吐物の性状は?」
玉森 : 「緑色がかった薄い液体だけです」
杉田 : 「じゃどこで閉塞している?」
玉森 : 「緑色だから、胆汁の出る所より下ですかね?」
杉田 : 「そう、十二指腸の水平脚あたりかな」
「それを確かめる方法は?」
玉森 : 「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 胃カメラ?」
杉田 : 「ガストログラフィンを胃内に入れて、流れを見ればいいんじゃないの?」
玉森 : 「ああそうか」
ガストログラフィンは造影剤である
十二指腸水平脚の部分で、縦に造影剤が止まっていた
典型的な、上腸間膜動脈症候群だ
十二指腸の水平部が、腹部大動脈と上腸間膜動脈の間に挟まれて、腸管内容がそこから下へ行かない
上腸間膜動脈と腹部大動脈の間を通るのだが、この間が生まれつき狭い人がいる
そして、そんな人が何かの原因でやせると、この間はますます狭くなり、十二指腸水平脚は両動脈に圧迫されて、内容物が下に行きにくくなる
胃が消化液で一杯になると吐く
吐くから食べられない
食べられないから痩せる
痩せるからますます十二指腸は通らなくなる
杉田 : 「診断が頭の中に浮かばない時は、教科書を読むことだ」
「たとえば ハリソン※ を見ると、嘔吐をきたす疾患の鑑別では、上から 4番目に上腸間膜動脈症候群の記載がある」
「自分の少ない知識の範囲で処理しようと思わないで、代表的な教科書の鑑別診断を一つずつ潰してゆく作業も大切なんだ」
裕太郎 : 「 ・ ・ ・ ・ ・ 」
造影剤だけで
彼女はウエディングドレスを美しく着こなすために、痩せようとして炭水化物ダイエットをしていたということが判明した
体重が増えるに従って、徐々に十二指腸は通るようになり、食事が可能となった
悪循環が断ち切られ、患者の顔はふっくらとした
かわいい女性に変身をとげていた
※ ハリソン:内科学のバイブル的存在の教科書
この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません