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No.219 めまい

2013/02/26

午前7時

東新記念病院では今日も朝のカンファランスが始まっている
研修医達はこれを、アサカンと呼ぶ

若手の医師や研修医が、夜に入院した患者のプレゼンをおこない、上級医を交えてカンファランスをおこなうのだ

今日のトップバターは当直明けの 三浦翔

「 48歳、高血圧で通院している患者さんですが、朝からめまいが激しいとのことで、救急搬送され、さきほど入院されました」

「めまいの鑑別診断をする予定です」


担当医となる藤谷は、三浦から簡単な申し送りを受けた

それを聞き、 「まためまい? 少し後で回診すればいいか、耳鼻科に紹介状を書かなくては」 と藤谷は思った

めまいで受診、入院する患者はきわめて多い

緊急入院理由の上位何番目かに入るほど多い主訴だが、小脳出血を除いて、生命にかかわるような原因疾患が隠れていることは滅多にない
発作性頭位幻暈、前庭神経炎などの内耳性めまいが筆頭だ
だからの 「まためまいか」 だった

藤谷が患者の佐伯雄二を診察すると

めまいはすでにおさまっていて、眼振もなく、小脳症状もなかったが、色白というか貧血気味というか、そんな顔色が印象的だった
どのようなめまいだったのかを聞き出そうとするのだが、患者の訴える内容はあいまいで、当を得ない

藤谷は、とりあえず、三浦が出したアデフォス入りの点滴の指示を踏襲することにして、外来に降りた

外来診療をしていると

電子カルテのモニター画面の上をにペンギンが右から左へと歩いている
歩いているペンギンを追っかけてクリックすると、看護師からのメール内容が画面に現れた

「佐伯さん、トイレに行くと、心臓がどきどきすると言っています」

藤谷は佐伯さんの画面から血液検査結果を確認した

えっ、血色素が 5.6g/dl ?
2ヶ月前は 14.6g/dl、平均赤血球体積(MCV)が 102だから、 2ヶ月の間に貧血が急速に進んだことになる

どこかからの出血による鉄欠乏性貧血なのか?

しかし、MCVは 104と、正常よりもむしろ大きいくらいだ

もし、鉄欠乏性貧血で、この程度の血色素しかないならば

MCVは、通常 60程度に下がっているだろう
いわゆる 「小球性貧血」 のはずである
それなのに 2ヶ月前とほぼ同じ 104
とすると、鉄欠乏性貧血はないのか?

鉄欠乏性貧血でないとすると

赤芽球癆 (せきがきゅうろう)※ 、溶血性貧血、悪性貧血などが鑑別に上がる
赤芽球癆は、伝染性紅斑や種々の薬物の副作用で起きるので、いま服用している薬を洗い直す必要がある

などなど、藤谷の頭の中には様々な推測が乱れた

藤谷はそそくさと外来を切り上げ、佐伯さんを、改めて訪室した

藤谷は、佐伯さんに、最近起きたことについて根掘り葉掘り尋ねた

佐伯さんが はじめに言ったことは

「随分前から、少しの体動で胸がどきどきするようになりました」

であった

藤谷 : 「黒い便が出たり、黒いものを吐いたりしませんでしたか?」

佐伯 : 「そういえば便の色は黒いです」

「あっ、それから数日前に吐き気があって、吐いたら黒いものが出ました」

間違いなく、消化管出血による貧血だ

でも、何か変だ

たとえば消化管出血直後であれば、出た血液と、体に残った血液の濃度は同じなので、血色素量は正常のままのはずだ

したがって、血色素が 5.6g/dlまで落ちるということは、超急性期の出血ではありえない

さて、以前から労作時に心臓がどきどきしていたということは

貧血が随分前からあったのだろう
しかし、慢性出血による貧血としても矛盾が残る
なぜMCV値が低下していないのだろう?

たとえば、大腸癌などがあって

比較的長期間にわたって、少しずつ出血が続くと、MCVの小さい、 「小球性貧血」 となる

なぜなら慢性に少しずつ出血をして鉄の欠乏が起きれば、体はそれに適応して赤血球の数を増やすが、体中の鉄が少ないために、 1個の赤血球の体積は小さくなるからだ

- つづく かもしれない

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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