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No.220 藤よし

2013/02/28

今宵 「藤よし」 に

杉田研作と、研修医の 三浦翔、 藤谷大輔、 鮎川真菜実 が集まって、いろいろな話に花が咲いている

「藤よし」 は東新記念病院から徒歩で 5分ほど、街道沿いにある居酒屋で、内装をリニューアルしたばかりだ

鮎川 : 「今日の外来で舌の痛みを訴える方が来たんですよ」
     「これは何科ですかね」

杉田 : 「何科って  君は自分で診ないつもりなの?」

鮎川 : 「だって、舌ですよ 舌は内科じゃないと思いますけど」

確かに 「舌痛症」 なる疾患がある

患者は痛みで苦しむが、舌は外見上正常に見えるので、医師に訴えても、どの科でも、あまり真剣に取り合ってくれないことが多い疾患だ

杉田 : 「いくつの人?」

鮎川 : 「たしか 70歳くらい、女性でした」


東新記念病院の若手医師や研修医達は

杉田を中心として、時々、藤よしで飲み会を開く
誰が言い出したのか、この会は 「杉田会」 と呼ばれるようになっていた

しかし、杉田会は、そこらの飲み会とは少し違う
「酒酌み交わしながらカンファランス」 風の会だ

病院でのカンファランスでは、今さら恥ずかしくて聞けないようなことも、この場では OK
若い医師達にとっては、杉田の臨床経験話も聞ける、絶好のチャンスだ

以前、ブームとなったEBMに対して

杉田が懐疑的であることを、メンバーは知っている
世の常識、流れに反逆することは、少し楽しい
杉田会の面々は、毎回、興味半分、食事半分で出席する

杉田 : 「鮎川、舌の異常感の原因には何があるか知ってる?」

鮎川 : 「味覚異常は亜鉛欠乏が原因のことが多いですよね プロマック出したりしますけど」

杉田 : 「そうなんだ でもね、舌痛も亜鉛欠乏が原因のことがある」
 「その患者さん、プロマック服用してもらったらどう?」
プロマックとは、もともと胃薬だが、亜鉛を含んでいるから、亜鉛欠乏症の治療薬となりうる

鮎川 : 「プロマック・・・でしたか」
 「実はフロリードゲルを処方しちゃいました」

杉田 : 「口腔カンジダと思ったの? 舌は見た目、何ともなかったんでしょ」

鮎川 : 「苦しまぎれです」

鮎川 : 「もし亜鉛欠乏なら、プロマック、どのくらいの期間投与すれば効果が出るんですか? それに血中亜鉛濃度を測らなくてもいいんですか?」

杉田 : 「ううん、僕は亜鉛を測らない」

鮎川 : 「どーして?」

アルコールが回るにつれて鮎川は次第にタメぐちになっていく

杉田 : 「血中亜鉛濃度が正常範囲内でもプロマックが効く例もあるからだ」
 「プロマックの効果もすぐには出ないだろうね 舌痛に関してなら最低でも数ヶ月投与してみないと痛みが消えないことが多いんだ」

鮎川 : 「へー 知らなかった でもどうして普通の食事をしていて亜鉛が不足するんだろ?」

彼女は、独り言ともとれる少し小さな声で言った

杉田 : 「それは良く分かっていないけど、若い人ではあまり見ないところをみると、高齢化とともに亜鉛代謝や吸収に変化が起きるのかもしれないね」
 「それに、いくつかの薬を服用しているのなら、その薬の作用で亜鉛吸収が減るなんてことだってありえるじゃない?」

鮎川 : 「へー  そーなんだ」

三浦が割り込む

「杉田先生、カンジダ症の舌も、外見上全く正常に見える場合があるんじゃないですか?」

杉田 : 「よく知っているね その通りだ」
 「だから鮎川の処方が間違いとは言い切れない  まずは効果を見ようじゃないか」

- つづく -

この物語は全くのフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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